<研究論文>「セロ弾きのゴーシュ」新論

書誌事項

タイトル別名
  • <Research Article>A New Theory of “Gōshu the Cellist”
  • 「セロ弾きのゴーシュ」新論
  • 「 セロ ヒキ ノ ゴーシュ 」 シン ロン

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説明

宮澤賢治の名作「セロ弾きのゴーシュ」は、生前未発表の作品であるが、推敲の跡を鮮明に残す原稿が現存し、それが克明に全集に翻刻されている。また、日本の教科書にも採用され続けているほど人口に膾炙した作品であり、作品論も膨大な数に上っている。筆者が海外の大学の日本語学科の教育現場で、これを積極的に取り上げた当初の動機は単純であった。下手なチェリストが猛練習を通じて一流楽手に成長する、というストーリーだと認めたためであった。しかし、先行研究を精査していくうちに、仏教思想の有無ないし濃淡をめぐって研究者の分析に違いが存在していることに気づいた。またそれらの中で、特に「瞋恚」と「慢心」という二つのキーワードについて用例を探究する必要性を感じた。そこでわかったことは、この二大性格を兼有するのが、賢治の詩集『春と修羅』の名に取り入れられている阿修羅だということである。  本稿では、次の三節に分けて論じる。1. 修羅の主題、2. 修羅の話型、3. 命名である。「セロ弾きのゴーシュ」の主題は修羅文学の構築として設定されており、また人物造型にも修羅の話型が踏まえられている。さらに「ゴーシュ」の命名に至っては修羅の名に起因するものであると考える。分析に際しては、全集に掲げられている作家の蔵書目録にある書籍を参照した。線引きしたり書き込んだりする作家の原蔵書は確認できていないが、やはり賢治が亡くなる1933年9月までに出版された書籍から着手すべきである。そのため、国立国会図書館デジタルコレクションのデータベースを使用した。その結果、主に三点の発見があった。まず、昼と夜との二つの修羅場を通う主人公の実態が見えてきた。次に、主人公の所属する楽団の名や懺悔の結末などは仏教典籍の修羅話を継承した結果であると判明した。最後に、主題論と畳語の用例を重視して、主人公の名は「囂修」であることを浮かび上らせた。

収録刊行物

  • 日本研究

    日本研究 69 121-135, 2024-10-10

    国際日本文化研究センター

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