文政期読本と実録

書誌事項

タイトル別名
  • “Yomihon” Novels and True Stories in the Bunsei Period
  • ブンセイキ トクホン ト ジツロク

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抄録

<p>文政期読本のなかに実録に依拠した作がある。『幼婦孝義録』は実録『西国順礼女敵討』を全体にわたって踏襲するが、人物間の情の遣り取りの内実を新たに描き込むなど細かな変更を行うことによって、作中に示された種々の事件や人物の伝などが相互に強い連関を保ちつつ、石井恒右衛門の人生という全編を統括する枠組に統合されるという構造が作られている。</p><p>また『千代物語』は実録『山陽奇談』に拠る。この実録は、歴史と人物の命運とを関連づけ、強い仮作性をもつなど、既に読本と近接する性質を備えている。『千代物語』はこれらの要素をそのまま踏襲しながら、全編の構造を明瞭化するために幾つかの加工を施している。</p><p>文政期作者の実録踏襲の方法は、享和から文化期前半の速水春暁斎の〈絵本もの〉の方法とも異なり、一見安易とも映る。ただしその裏に、実録と読本における様式の近接の在りよう、また、読本は全編の堅固な構造を志向すべしという意識が作者たちのなかに存したことなどを窺うことができる。</p>

収録刊行物

  • 日本文学

    日本文学 64 (10), 25-35, 2015-10-10

    日本文学協会

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