重症心身障害児(者)の骨粗鬆症・骨折予防

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  • 酒井 朋子
    東京医科歯科大学医学部附属病院 リハビリテーション科 東京都立東部療育センター

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抄録

重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))における骨折発生率が高いことは多く知られており、骨折は在宅の場面でも施設内でも多く経験される。施設内入所者の骨折の発生頻度は、施設により差はあるが、年間2~3%という報告がある。一方で、重症者の骨折においては発見することが難しく、多くは診断が遅れがちとなる。 骨折の原因としては、四肢関節に拘縮があることととともに、骨の脆弱性、つまり骨粗鬆症の存在があげられる。東京都立東部療育センター入所者(以後入所者)における調査ではすべての世代においてほぼ全例に重度の骨粗鬆症の存在を認めた。 いわゆる原発性骨粗鬆症は、多くが閉経後の女性に生じ、女性ホルモンの減少により骨吸収の速度が速くなることが原因である。その後加齢がすすむと骨形成の速度も遅くなり、さらに骨密度が低下していく。一方、重症児(者)の骨粗鬆症は小児期や若年時より認められ、荷重不足や抗てんかん薬投与、日光照射不足、栄養障害など、いわゆる原発性骨粗鬆症とは異なるさまざまな要因の関与が指摘されている。 栄養面に注目すると、重症者には経管栄養者も多く、入所者においての骨粗鬆症の調査では経管栄養者のほうが経口摂取を行っているものよりさらに重度の骨粗鬆症を呈していた。このことからビタミンDやビタミンKなど骨代謝に必須な物質の欠乏が原因のひとつになっている可能性が考えられる。 調査における骨折発生部位としては、下肢が最も多く、中でも大腿骨顆上骨折と足関節骨折を多く認めた。次いで、上肢、脊椎の骨折もあった。 受傷機転としては通院者においては自宅での入浴、おむつ替え、更衣など、介護での発生が多く、入所者では装具作成時や可動域訓練、レクリエーションなど施術中の発生も経験している。一方で、受傷機転が不明な例も多い。同調査では自宅介護によるものはすべて大腿に発症していた。股関節や膝関節の拘縮があるため、おむつ交換などの処置の際に梃子のような力が膝や大腿骨に伝わったとき、大腿骨顆上の骨折がおこる。車いす乗車中に下腿がぶつかり骨折を起こす場合や、ベッド柵に手を当てて前腕や肘を自傷するケースもあった。一方で約半数では受傷機転が不明になっている。これらは軽微な力により発症するため骨折に気づかれない場合や、強い緊張や自重に耐えられず骨折がおこる場合と考えている。不明例では大腿骨での骨折が多い。  治療経過としては、主に保存的治療が行われることが選択される。多くは経過良好で、比較的早期に化骨が形成され、しっかりした骨癒合が得られる。骨癒合を得るためにはギプスをまくことや副木を当てることで骨折部を固定し同部の安定化をはかることが重要で、固定により痛みの軽減がえられ、また移動等が可能となるため介護するうえでも有効である。骨折部の固定をすると、それまで促迫していた脈拍がおちついてくることも多く経験される。固定により痛みが軽減することによると考えられる。脈拍、発熱等のバイタルサインや体調が、意思表示のむずかしい重症者の痛みをくみ取る指標となることもある。 愛護的な介護により骨折が回避されるのが望ましいことは言うまでもないことであるが、それでも骨折を完全になくすことはむずかしい。一方で、重症者の骨折は通常、保存治療において十分な骨癒合が得られる。表情や体調変化より骨折の存在を疑い早めに発見すること、固定することで痛みから解放することは重要である。 当日の口演時は、多くの症例を供覧します。 略歴 1989年東京医科歯科大学医学部を卒業。 同年東京医科歯科大学医学部附属病院整形外科入局。同愛記念病院、日産玉川病院等、関連病院勤務を経て、現在、同大学病院リハビリテーション科長。 2011年より東京都立東部療育センター整形外科の外来、病棟診療にて重症心身障害児(者)の骨折や骨粗鬆症の治療を行っている。 所属学会:日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会、日本股関節学会、日本重症心身障害学会

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