高エネルギー光子検出用高速シンチレータの材料開発

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タイトル別名
  • Development of Fast Scintillators for High-Energy Photon Detection
  • 実験技術 高エネルギー光子検出用高速シンチレータの材料開発
  • ジッケン ギジュツ コウエネルギー ミツコ ケンシュツヨウ コウソク シンチレータ ノ ザイリョウ カイハツ

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抄録

<p>シンチレータとは,放射線計測に用いられる蛍光体である.X線やガンマ線などの高エネルギー光子,あるいは高エネルギーの粒子線により付与されたエネルギーにより数多くの電子が励起され,その結果として,典型的には数百~数万の可視・紫外域の光子が生じる.この光子を,光電子増倍管などの光センサーで検出することにより,放射線検出に対応する電気信号が得られる.発生する光子数は,概ね付与エネルギーに比例するため,検出信号の大きさから,吸収した粒子のエネルギーを求めることが可能である.発生する光子数が多いほど,エネルギーの決定精度(エネルギー分解能)は高くなる.シンチレータの特性の観点からは,これはシンチレーション収率(単位付与エネルギーあたりの発生光子数)により決定される.また,光子が短い時間幅で発生すれば,放射線到達時刻の決定精度(時間分解能)が高くなり,なおかつ不感時間の短い検出器の構成が可能である.この特性は,シンチレーションの減衰時定数により表現される.さらには,検出効率の観点からは,計測対象とする放射線との相互作用確率が高いことも求められる.高エネルギー光子検出の場合では,これは高い密度および構成元素の原子番号により達成される.残念ながら,現状ではこれら全ての特性において理想的な材料は存在しない.そのため,高エネルギー物理から安全保障(手荷物検査や貨物の放射能検知など),あるいは医療診断の装置に至るまで,化学的安定性や価格など他の要因も考慮しながら,用途に応じて適した材料が用いられている.</p><p>新規の材料開発の観点では,高い密度とシンチレーション収率を有する材料の探索が主流である.その中で,シンチレーションの減衰の速い材料のほとんどは,Ce3+やPr 3+という発光中心の5d–4f遷移を用いるものである.この遷移による発光の減衰時定数は典型的に数10 nsである.この減衰時定数で「充分に高速」な用途も多いものの,近年,より高い時間分解能や短い不感時間(即ち高い計数率での測定)を必要とする用途が顕在化している.</p><p>東北大越水らのグループは,より速い(減衰時定数にして10 ns以下の)電子遷移を用い,高速応答性を有するシンチレータを,3つに分類されるアプローチにて開発を行っている.自己束縛励起子,あるいは価電子から最外内殻準位への電子遷移による発光を用いるアプローチでは,塩化セシウムベースの材料を用いることにより,2 ns前後の減衰時定数が達成された.これは現在用いられている高速応答無機シンチレータであるBaF2に,総じて匹敵,あるいは凌駕する性能である.また,有機無機ペロブスカイト型化合物の量子閉じ込め構造中のワニエ励起子発光を用いるアプローチでは,10 ns以下のシンチレーション減衰時定数を達成しつつ,市販の無機シンチレータの一部に匹敵するシンチレーション収率が達成されている.さらに,有機蛍光体の発光を利用するアプローチでは,プラスチックシンチレータベースの材料開発が行われた.その欠点である,低い密度や構成元素の原子番号を克服すべく,重金属元素酸化物のナノ粒子を添加することにより,高エネルギー光子の検出効率を飛躍的に向上させ,市販の高エネルギー光子検出用プラスチックシンチレータの性能を顕著に凌駕する性能が得られている.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 75 (7), 439-444, 2020-07-05

    一般社団法人 日本物理学会

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