地理学と風土

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  • Geography and <i>fudo</i>

抄録

<p>1.はじめに</p><p>和辻哲郎が提起した「風土」概念(和辻 1935)は,マクロスケールで自然環境と人間を総合的に把握する点で,地理学と親和性の高い一方,常に地理学の中では,環境決定論として忌避されてきた。  </p><p>鈴木秀夫は,鈴木(1975)の序論で和辻(1935)に触れ,終章では「風土としての気候学」を論じ,日本と世界全体を除いて,風土論のための各国レベルで十分な材料を提供できる段階にないとした。一方,気候との関係を求める他の分野からの材料の提出はもっと遅れているとし,自ら鈴木(1976,1980)で宗教との関係を,その後は言語や民族移動との関係(鈴木1990, 2000)を論じ,研究生活を終えた。鈴木(1980)に対し,ベルク(1988)は「性懲りもない決定論」として強く批判している。</p><p>千葉徳爾(千葉 1979)は,和辻風土論の検討の中で,風土そのものは,現実の野外における人間の存在形態の出会いによってしか,とらえることのできないものとした。またこれは,普遍的実在として誰もが認識するものではないとし,「気候学における未発達な人間研究の分野がより促進されることが望まれる」と結んでいる。</p><p>高野(2010, 2011,2013a, 2013b)は,これら3名の著作を,著者の生い立ちを含めて詳細に検討し,現代地理学の中での意義について論じている。</p><p>他方,和辻と同時代にも生きた三澤勝衛は,信州という限られた空間の中で,一貫して風土の重要性を捉え,かつ風土を認識できる人間の育成をめざし,地理教育として実践した。風土性の解明こそ地理学の役割とし,専門分野を越えた地域の理解が,地理学の課題であるとした(三澤 1979a-c,三澤 2009a-d)。三橋(2013)は,三澤風土論が現代の災害にも通じる意義があるとしている。</p><p>2. 風土学の課題</p><p>鈴木(1975)の中の世界スケールでの気候観の一つは,世界を一周する赤道西風であった。陸上の気候データだけで構築されたこの見方は,その後大気の全球客観解析データで否定された(Matsumoto, 1990)。しかしそれを正面から論じた一般向けの書物はない。他方で「風土としての気候学」を記述できる材料は,近年きわめて充実してきた。気候学は,それらを利用した新たな気候像を示す必要があり,それは,世界各地での自然環境理解の深化に資する。</p><p>自然環境と人間の捉え方として,荒木(2012)は図1を示し,従前型のAではなく,BやCといった相互作用を含めた地域の多様性を理解すべき概念として「風土」を提起した。個別科学としての自然地理学と人文地理学の乖離がますます大きくなる中,地域を総合的に観る視点として,自然と人間が織りなす地域システムを認識し,示していくことが必要ではなかろうか。持続可能な地域の構築に資する科学的風土像を社会に提示していくことが求められよう。</p><p>引用文献</p><p>荒木一視 2012 モンスーンアジアのフードと風土 明石書店</p><p>鈴木秀夫 1975『風土の構造』大明堂</p><p>鈴木秀夫 1976『超越者と風土』大明堂</p><p>鈴木秀夫 1978『森林の思考・砂漠の思考』日本放送協会</p><p>鈴木秀夫 2000『気候の変化が言葉をかえた』日本放送協会</p><p>鈴木秀夫 2010『気候変化と人間』原書房</p><p>高野 宏 2010 岡山大院社文研紀要, 30, 313-322.</p><p>高野 宏 2011 岡山大院社文研紀要, 31, 205-226</p><p>高野 宏 2013a 岡山大学文学部紀要, 59, 29-45.</p><p>高野 宏 2013b 岡山大院社文研紀要, 36, 21-38.</p><p>千葉徳爾 1979 風土論 朝倉書店</p><p>ベルク オギュスタン・篠田勝英訳 1988『風土の日本』筑摩書房</p><p>三澤勝衛・矢澤大二編1979a-c『三澤勝衛作品集 Ⅰ〜Ⅲ』みすず書房</p><p>三澤勝衛 2009a-d『三澤勝衛著作集 1〜4』 農文協            </p><p>三橋浩志 2013 中等社会科教育研究, 30, 57-66.</p><p>和辻哲郎 1935『風土』岩波書店</p><p>Matsumoto, J. 1990. Geogr. Rev. Jpn, 63-B, 156-178.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1391693801403731072
  • NII論文ID
    130007949223
  • DOI
    10.14866/ajg.2020a.0_172
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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