世界遺産は島の歴史をいかに語るのか?

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  • How does World Heritage tell the history of the island?

説明

<p>1.はじめに</p><p></p><p> 本発表では,長崎県五島列島を対象に,世界遺産登録前後における島の歴史をめぐる表象に着目し,潜伏キリシタンがヘリテージとなり観光資源化されるなかで,現在何がおこっているのか報告する。研究資料としては,報告者による「ながさき巡礼」の参与観察記録,巡礼ガイドほか関係者への聞き取り調査,および現地での景観観察に加え,『世界遺産推薦書』等のテクストを利用した。</p><p></p><p>2.五島列島と宗教ツーリズム</p><p></p><p>五島列島は九州の最西端,長崎県西彼杵半島の沖合約50〜100kmに浮かぶ島々である。福江島,久賀島,奈留島,若松島,中通島の5つの島を五島と称し,18の有人島と120余りの無人島からなる。五島列島にキリスト教が伝わったのは1566年のことであり,その後キリシタンの信仰が広まった。禁教時代18世紀末以降には,大村藩領であった外海地方から厳しい取り締まりを逃れ,五島へと合計で3,000人ものキリシタンが移住したとされる。潜伏期の労苦に耐えてキリスト教が解禁された後,明治中期から大正期以降,島内には信者らの手によりカトリックの教会堂が建てられていった。現在五島列島には50ものカトリック教会堂がみられるが,これらの教会堂のなかには,文化財としての価値を高く評価される教会もあり,2007年1月には「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」として,五島を中心とする長崎地方の教会関連遺産が,わが国の世界文化遺産の暫定リスト入りした。その後,構成資産とストーリーの見直しをはかり,2018年6月,「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界文化遺産に登録された。12の構成資産のうち,4つが五島列島に分布し,登録以降,世界遺産に関連する観光商品が生み出されている。</p><p></p><p>3. オーソライズされる歴史と現場の対応</p><p></p><p>カトリック長崎大司教区と長崎県では,2006年7月から「ながさき巡礼検討会議」を発足し,教会や関連する潜伏キリシタンの聖地が観光資源化するうえで,ガイドラインを策定した。そこでカトリック側からの最も強い要請が,宗教空間としての祈りの場をいかに守るか,であった。検討会議では,巡礼ルートの作成や巡礼地の選択のほか,ガイドの養成が急務とされ,翌2007年には長崎巡礼センターが開設(2008年からNPO法人化)され,ガイドの養成事業が進められている。各種の公式ガイドブック(含む映像資料)は年々充実し(図1),巡礼ガイドにより,キリシタンをめぐる島の歴史が語られる一方で,これまで信徒以外が訪れることが少なかった教会や聖地では,歴史をめぐる表象に変化が生じている(図2)。世界遺産登録とともに,島の歴史はどのように書き換えられているのか,五島列島の現状を報告する。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1391975276380429312
  • NII論文ID
    130007949196
  • DOI
    10.14866/ajg.2020a.0_141
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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