高齢者における茎突咽頭筋の形態学的研究

  • 韓 萌
    北海道文教大学人間科学部理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • Morphological study of the stylopharyngeus in elderly group

この論文をさがす

説明

<p>【目的】食物の咽頭残留量に比例して老年期誤嚥の発生率が上がり,咽頭クリアランスの低下が誤嚥における危険因子の一つとなる.茎突咽頭筋はその形態から咽頭短縮の主動作筋として知られるが,咽頭クリアランス機能を持つ可能性も示唆されている.本研究は老年期の茎突咽頭筋の形態学的変化について検討することを目的とした.</p><p>【対象と方法】89体169側の解剖体を用い,茎突咽頭筋の前後幅・左右幅から断面積を求めた.また同筋が咽頭壁に進入する角度(茎突咽頭筋角)を計測し,さらに梨状陥凹に茎突咽頭筋線維の進入率を算出した.解剖体は55歳以上74歳以下(老年期前期)と75歳以上(老年期後期)の2群に分けた.統計処理は左右差に関しては対応のあるt検定,男女差と年齢差に関しては対応のないt検定で行った.</p><p>【結果】茎突咽頭筋は咽頭壁に進入した後,上部・中部と下部筋束に分かれて停止していた.このうち,上部筋束は口蓋扁桃床の基底部に入り,中部筋束は咽頭喉頭蓋ヒダと併走して喉頭蓋に達し,下部筋束は梨状陥凹底の粘膜下と甲状軟骨板の外側縁に達していた.茎突咽頭筋角は左側より右側が大きく,老年後期では男性より女性が有意に大きかった.茎突咽頭筋の断面積は女性において老年前期に比べ老年後期で有意に大きかった.</p><p>【考察】喉頭は70歳以後下降することが知られており,嚥下時の喉頭挙上はそれ以前に比べ大きな負荷がかかることが予想される.今回の結果から老年期前期に比べ,老年期後期の女性では茎突咽頭筋断面積が大きいことから,加齢に伴って直筋が作業性肥大したことが示唆される.一方,男性の茎突咽頭筋角は女性より小さいことから,男性の喉頭下降幅が女性より大きいことを反映していると推測した.さらに梨状陥凹内に茎突咽頭筋が高率に進入している所見からは嚥下時の咽頭クリアランスに同筋が影響を及ぼす可能性が示唆された.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ