妊娠悪阻における味覚異常に関する研究

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  • Studies on Hypogeusia in Hyperemesis Gravidarum

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妊娠初期に妊娠悪阻, 味覚異常および血中における微量元素の変化が認められる。そこで我々は妊娠悪阻の妊婦に味覚試験を実施して妊娠悪阻と味覚異常との関連を明らかにして, 悪阻における味覚障害に関与すると推測される種々の因子を検討した。悪阻の妊婦38名, 悪阻のない妊婦12名および対照として非妊娠婦人22名をロ紙ディスク法と電気味覚計を併用して味覚検査を実施した。さらに悪阻における栄養代謝異常とscavenger systemの機能をも検討するため過酸化脂質 (以下LPO) のみならず, 血中微量元素, 脂質およびビタミンE (以下VE) を併せて測定して以下の結果を得た。1. ロ紙ディスク法による味覚検査では悪阻群で甘味の味覚が有意に低下していた (p<0.05)。2. 電気味覚計による味覚検査では悪阻群および非悪阻群は対照群と比較して舌尖, 舌根および軟口蓋で味覚閾値が有意に低下していた (軟口蓋での非悪阻群: p<0.05, ほかはp<0.01)。3. 錯味 (異味覚) は悪阻群が有意に多く認められた (p<0.05)。一方, 苦味の錯味は認められなかった。4. 悪阻群および非悪阻群では対照群と比べて亜鉛とマグネシウムの有意の低下が認められた (p<0.01)。一方, 銅は有意の上昇が認められた (p<0.01)。5.総コレステロールとリン脂質が悪阻群で有意に低下していた (p<0.05)。6. VEは三群において有意差は認められなかった。しかし, 悪阻群においてLPOが有意に上昇していた (p<0.01)。以上より甘味覚低下および錯味の増加は悪阻に特有の現象であり, とくに苦味は悪阻の影響を受けにくい味質であることがわかった。また電気味覚計による味覚閾値の低下は妊娠に特有の現象であることがわかった。さらに悪阻では生体内の抗酸化機序の障害が考えられ悪阻の原因の一部である可能性が考えられた。したがって味覚異常をきたす物質の究明さらに感覚器の特徴を追求することにより悪阻の予防のみならず, 幅広い治療の一助になるものと考えられた。

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