癌の骨転移の病態と治療
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- 岩本,幸英
- 九州大学大学院医学研究院整形外科
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説明
癌の骨転移においては,転移巣に至るまでの過程における基底膜浸潤,転移巣における骨基質の破壊などで,癌細胞によるマトリックス破壊が行われる。本講演では,骨基質の破壊による臨床的問題とその治療,転移の機序と制御法開発に関する研究成果について述べる。【骨転移の治療の現状】集学的治療の進歩により,原発巣が根治され癌患者の延命がえられるようになった。しかし,骨転移の制御は未だ不十分なため,脊椎転移による麻痺と疼痛,四肢長管骨転移による病的骨折と疼痛のために治療を要する症例はむしろ増加している。治療法は,原発巣の癌の種類,病期に応じて選択している。手術療法:四肢では,広範切除,人工関節による再建,脊椎転移においては,椎弓切除と金属材料を用いた内固定による脊椎の安定性の獲得を行う。放射線療法:短い生命予後,全身播種の症例では放射線療法を選択する。ホルモン療法:乳癌,前立腺癌を対象とする。Bisphosphonate:破骨細胞の機能を抑制することにより,疼痛軽減,病的骨折予防,高カルシウム血症改善などの効果がある。これらの方法では未だ不十分であり,今後は転移の機序,病態の解析に基づく多様な新規治療法の開発が望まれる。【転移の機序,病態の解析と新しい制御法の開発の試み】癌の骨転移は,原発巣からの遊離,血管内への播種,骨への着床,骨転移巣での増殖からなる複合現象である。1)悪性腫瘍では細胞間接着分子の機能異常があり,原発巣からの遊離,ひいては転移をきたしやすい。われわれの検討結果でも,細胞間接着分子であるE-cadherin,α-cateninの異常があるものは転移をきたしやすく予後不良であった。また,E-cadherinは細胞の遊離だけでなく腫瘍組織の形態形成にも関与していた。2)癌細胞は,内皮細胞下のバリアーである基底膜を浸潤,貫通し,血管内へ侵入する。基底膜浸潤は,基底膜への接着,MMPによる酵素的破壊,運動という3つのプロセスに分けられる。われわれはまずMatrigelを用いたin vitro invasion assayを考案し,基底膜浸潤機序の解明とその制御法に関する研究に応用した。基底膜への接着阻害,TIMPsの発現誘導とMMPs活性の抑制などにより,浸潤,転移が抑制されることを示した。腫瘍細胞の運動については,TNF-αによる運動能と基底膜浸潤能の促進が,antioxidantsによるNF-κBの不活化で抑制されることを示した。また,細胞内のRhoを過剰に活性化させると,stress fiber,接着斑の過剰形成 とともに腫瘍細胞の運動,浸潤能が低下したが,その際MMP-2の活性化,FAKのリン酸化も阻害されていた。このことから,RhoからFAKへつながるシグナル伝達系により細胞運動,酵素的破壊という複数のステップが同時に制御されており,Rho-FAK経路の活性調節により基底膜浸潤を制御しうることが明らかになった。3)骨髄に着床した癌細胞は,破骨細胞を介した骨基質の分解と,腫瘍血管新生により増殖する。われわれは腫瘍血管新生の主役であるVEGFが,破骨細胞の前駆細胞の遊走能,運動能を促進すること,VEGFの下流にはI型VEGF受容体であるFlt-1およびFAKが存在することを明らかにした。このことは,VEGFが骨破壊にも関与していることを示している。VEGF-Flt-1-FAKのシグナルの阻害により,骨破壊が抑制される可能性がある。
収録刊行物
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- Connective tissue
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Connective tissue 36 (2), 61-, 2004-06-03
日本結合組織学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1544231895067339520
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- NII論文ID
- 110004014439
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- NII書誌ID
- AN10169901
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- NDLデジコレ(旧NII-ELS)
- CiNii Articles