コンピュータービジョンによるブロッコリー外観品質の客観的評価

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抄録

ブロッコリーの外観は,クロロフィル,アントシアニンという2種類の天然色素の影響を受ける。クロロフィルは緑色の元となる物質で,新鮮さの指標[5]である一方,アントシアニンが多く含まれる花蕾は紫がかった外観となり,品質を損ねる[24]。ブロッコリーの外観品質は今のところ,農家あるいは選果選別ラインにおいて主観的に判定されているが,人によって基準が異なるなどの問題がある。そこで過去には,ブロッコリーの外観品質を客観的に評価する試みがなされてきた。色彩計で測定した色空間値から評価する方法[5,12,28]は,ブロッコリーの鮮度評価に効果的であったが,一点測定であることから,一株中の任意の箇所の緑色を著しく喪失するブロッコリーの外観[9]評価に利用することは困難と考えられる。一方,デジタルカメラで撮影した二次元RGB画像を用いた評価もなされているが[20,21],これは撮影機器に依存する値であり[22],普遍的な結果とは言えない。さらに,ブロッコリー花蕾部のアントシアニンについて非破壊評価を試みた研究例は見当たらない。そこで本研究では,デジタルカメラの1種であるコンピュータービジョンを利用して,ブロッコリー花蕾部のクロロフィルとアントシアニンの濃度を同時にかつ客観的に評価する方法について検討した。三重県内の農場にて通常の品種(アントシアニン濃度水準: 高,以下,Hという。)とアントシアニンレスの品種(アントシアニン濃度水準: 低,以下,Lという。)を入手した。それぞれの品種を0,3,5 d貯蔵(以下,それぞれ0,3,5という。)に割り付け,貯蔵期間を変えることによりクロロフィル濃度水準を変動させた。すなわち,クロロフィル濃度3水準×アントシアニン濃度2水準の計6種類の試料を用意した(詳細はTable 1の通り)。画像の撮影には,Makino et al.[25]がマンゴー果皮のアントシアニン濃度をコンピュータービジョンで客観的に評価した研究と同一の装置と方法を用いた。6種類の試料から採取した関心領域(ROI)の色空間値をa*および-a*/b*を軸とする座標にプロットした(Fig.1)。なお,a*は赤味が増すほど値が高くなることから[27],アントシアニンの指標として,-a*/b*はクロロフィルの減少とともに値が低くなることから[28],クロロフィルの指標として選択した。アントシアニン濃度が低くクロロフィル濃度が高い個体(0L)が高品質のブロッコリーと言える。Fig.1のプロット結果から,高品質の花蕾を示す色空間値の範囲をa*0.94と決定した。Fig.2にはアントシアニンとクロロフィルaを軸とする座標にROIのデータをプロットした。高等植物はクロロフィルbも含有するが,クロロフィルaの方が濃度が高く,経時的な変化量も大きい。3Hのクロロフィルa濃度は3Lに比べて有意に低かった。フラボノイドの1種であるアピゲニンがクロロフィルの分解を促進すると報告されていることから[31],同じ貯蔵日数でもアントシアニン濃度が高い個体の方がクロロフィル濃度が低かったのは,アントシアニンがフラボノイドの1種であることが関係しているのかもしれない。Fig.3には,高品質花蕾の分布をコンピュータービジョンで可視化した例を示した。0Lは0Hに比べて,1株に占めるアントシアニン濃度が低い花蕾の割合(a*0.94; gr)は48%であったが,貯蔵日数が進むにつれて低下した。同じ個体で高品質花蕾の割合(a*0.94; hi)を算出したところ,同じ個体のgrよりも低くなった。これは,a*0.94という範囲が過去の研究例[5,12,28]に比べて厳しかったことが一因と考えられる。本研究で提案した色空間値の範囲あるいは閾値は,農家あるいは集出荷場の都合により変更可能であり,閾値を変更することで,適切な選別を行えると考える。いずれにしても,本研究で提案した方法は,客観的かつ自動的なブロッコリーの選別に有効であることが明らかになった。

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