精神障害者家族研究の変遷 : 1940年代から2004年までの先行研究

  • 半澤 節子
    長崎純心大学大学院人間文化研究科博士後期課程

書誌事項

タイトル別名
  • Research on Families with Members Suffering Psychiatric Disorders : Changes in Focus from 1940 to 2004

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抄録

これまでの精神障害者の家族研究は,どのように変遷してきたのだろうか。家族研究の変遷は大きく三期に区分することができる。第一期は,1940年代から1960年代における欧米の家族病因論を仮説とした実証研究が位置付けられる。家族の言動や家族関係が精神障害者,特に統合失調症患者に悪影響を与えるという仮説が事例研究により裏付けられた。第二期は,1970年代から1980年代にかけて,家族の情緒的発言が退院してきた統合失調症患者の再発に影響を及ぼすという感情表出(Expressed Emotion)の研究である。情緒的発言は実際の家族と精神障害者の面接場面における批判的コメント,情緒的巻き込まれなどを観察し尺度化し,感情表出の高い家族と同居する患者は9ヶ月後の再発率が上昇することを明らかにした。その後,家族の対処技能の改善を図る家族心理教育の理論と方法が発展し日本にも普及した。これまでの研究は再発予防という医学的貢献を果たしたが,一方で,家族の介護に翻弄するありようを心理社会的な環境要因との関連を検討する研究もみられるようになった。これが第三期以降の研究と考えられる。第三期は,1990年代欧米でストレス・コーピング・モデルによって家族の経験を位置付けた研究である。家族の経験は患者の症状,無為自閉,社会生活の困難という「ストレッサー」や,家族関係,友人,専門職といった「介入因子」により影響を受け,家族なりに対処しながらwell-beingが決定づけられるという理論仮説の実証研究である。日本では1987年に生活困難度評価尺度が開発され,社会の偏見の強い中,周囲に援助を求めず孤立しながら疲労感や絶望感を抱えているという家族の状況が明らかにされるようになった。2000年以降,精神疾患や障害の理解度,症状の自覚や帰属,精神障害者と家族の障害受容に着目した研究がみられるが,こうした要因は精神障害者と家族を取り巻く環境要因に影響を受けると考えられる。精神障害者と家族を取り巻く環境の改善,偏見差別の問題解決は介護負担感の軽減に重要な要因であり,同時にそれは地域社会に精神障害者の福祉の文化が育まれることと一体となるものである。

収録刊行物

  • 人間文化研究

    人間文化研究 3 65-89, 2005-03-01

    長崎純心大学・長崎純心大学短期大学部

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1570572702011512320
  • NII論文ID
    110004634407
  • NII書誌ID
    AA1184559X
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • CiNii Articles
    • KAKEN

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