06 境界の変遷 -トカラ・奄美・沖縄における丸木舟の変化-

書誌事項

タイトル別名
  • The Changes of the Boundary:The Development of the Dugout Canoes in Tokara, Amami and Okinawa

説明

これまで「琉球」、「南島」、「オキナワ」の北限として設定されがちであった奄美群島とトカラ列島との間の「境界線」はどの程度、固定的か。本研究ではこうした疑問から出発して、トカラ列島を主なフィールドに選び、同列島に特徴的な丸木舟の形態と使い分けシステム、推進・操船方法の変遷の過程と背景を明らかにし、これまで筆者が積み上げてきた奄美・沖縄群島各地の船のそれと比較・対照しつつ、あらためて「琉球」、「南島」、「オキナワ」を区切る「境界」について考えてみた。 近代以前、これらの島々では全域で丸木舟が使われていた。それらは名称や形態など多くの技術的特徴を共有していた。島々は同一の圏域をなしていたといえる。しかし、各地の船の使い分けシステムを見ると、近代以後、トカラ列島中北部では汎用船として多方面に使われたが、同列島南部では定期船の艀(はしけ)として専用船化し、奄美大島では特に変化はなく、それ以前に行われていた他船との使い分けが継続した。沖縄群島以南においては複材化してサバニへ変化する過程で漁業用に特化され、形態を変化させて独自色を強めていった。島々の間にまた別の「境界」が発生したといえる。そしてその推進・操船方法の変化を見ると、トカラ列島では櫓の使用が卓越するようになり、同列島以外では手櫂の使用が卓越するという推進・操船方法がその後も維持された。この場合の「境界」は、上で見たどの「境界」とも位置が違っていた。 それぞれの事象から浮かび上がってくる「境界」の位置は単に時間の推移に応じて変化していただけでなく、事象間においても多様に変遷した。モノ資料研究においてこれまで自明のように扱われてきた「境界」のありようには、まだ検討する余地があるように思う。

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