繰り返す誤嚥性肺炎に対する理学療法

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  • Physical Therapy for repeated aspiration pneumonia

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説明

日本人の肺炎での死亡率は高く,死亡原因の第4位である。年齢とともに摂食・嚥下機能は低下し,誤嚥による肺炎(誤嚥性肺炎)が増えてくる。肺炎後の廃用症候群や嚥下障害に対する理学療法の報告はあるが,誤嚥性肺炎に対する報告は少ない。今回,誤嚥性肺炎を繰り返し,2週間と安定しない症例を担当し,嚥下障害に対して理学療法の介入を試み,安定して経口摂取が可能となった症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。症例は66歳の男性。胸部のCT画像では背側部に浸潤影を認め,分泌物貯留などによる酸素化能の低下が疑われた。呼吸状態は吸気で連続性ラ音(いびき様音)が聴取され,吸引後は吸気時に両側下葉から捻髪音が聴取された。呼吸数は20〜30回/分と頻呼吸を認めた(酸素マスク使用,酸素流量3L,経皮的酸素飽和度97〜99%)。 胸鎖乳突筋や僧帽筋などの呼吸補助筋は吸気・呼気ともに活動し,頚部の動きを制限していた。嚥下機能は咀嚼や食塊形成など不十分であり,嚥下反射の遅延を認め,ゼリー食でも「むせ」が時々みられた。また口腔内は乾燥し,舌や歯列に痰が付着しており不衛生な状態が多かった。短期目標は誤嚥性肺炎の早期改善と再発予防とし,廃用症候群への対応とした。長期目標は再発のない安定した施設生活とした。プログラムは(1)呼吸理学療法,(2)ROM訓練,(3)座位訓練,(4)整容動作訓練をおこなった。誤嚥性肺炎は口腔ケアの重要性が指摘されており,食物残渣の除去と口腔内の湿潤化を目的に整容動作(含嗽と歯磨き動作)を行った。不良姿勢,頻呼吸,理解力の低下,嚥下能力の低下,口腔内の乾燥など不利な条件が重なり,歯磨き動作時に誤って水を飲んでしまう危険性が高かった。整容動作訓練ではこの危険性を十分に認識し,姿勢・呼吸・視覚・水分量・咳嗽の5点に注意しながらアプローチを行った。最終評価時では全身状態や栄養状態は安定し,肺炎の再発などみられなくなった。動作面は端座位が可能となり,歯磨き動作もセッティングを行えば見守りにて可能となった。当初みられた頚部の運動制限や不衛生な口腔状態は改善し,嚥下機能に好影響をもたらした。誤嚥性肺炎に対して理学療法の有効性が示されたが,他職種との連携の結果でもあり,チーム医療の中で必要とされている職種の一つでもある。今後,この分野での理学療法の進展に期待をよせるものである。

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