研究生活四〇余年

抄録

このたび、奈良大学を去るに際し、『文化財学報』の貴重な紙面を割いて、私の著作目録を載せて下さることとなった。最終定年に至らない段階での、身勝手な転職であるのに、このような御厚情をいただくこととなったのは、水野正好学長をはじめひとえに文化財学科の皆さんのあたたかいお心づかいによるものである。有難いことである。四〇年を越える研究生活のなかで、世に誇るに足るような著論は見当らないが、奈良大学に在職した八年間は、それまでの断片的な知識の集積を繋ぎながら、大局観を形成した時期であった。授業中の大きな画面となるスライドは、しばしば私に誤った思い込みを訂正させ、作品に対する評価を定着させた。教壇はそのまま試論を育くむ場であり、また反省の機会を与える時間でもあった。学生や聴講生諸君の真摯な学習態度がそれを可能にしたことはいうまでもない。振りかえってみると、いくつかの私の試論の形成に際しては、多くの先生や先学たちの学恩を蒙っている。ここではその方がたへの謝恩の意味を籠めて、研究生活四〇余年を振りかえってみたいと思う。目録は索引としては有用であるが、無味乾燥な羅列のように見えることもある。そこに大小強弱の印を打ち、線引きするなどしてはじめて個人の研究歴に血が通って来る。以下、職場(一部在学を含む) 別に四期に分けて回想することとしよう。

収録刊行物

  • 文化財学報

    文化財学報 (13), 17-25, 1995-03

    奈良大学文学部文化財学科

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