緑の保全に関わる日中

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抄録

私たちが関係するNPO法人日中資源開発協会は,日中間で産業,文化の交流,特にイネによる沙漠緑化や土壌改良による食料生産,環境保全に関して,学際的に活動している。日本における産業発展の礎には,中国の影響が大きいとの認識から,2,540年余り前の,呉時代の繁栄を残す蘇州市の発展に注目した。常に人の生活周辺を支える緑。この保全をキーワードに技術,学術・文化特に中国と日本のコミュニケーション,転移・影響を今後3年間の予定で調査したいとの希望を市へ伝え,協力の了解を得た。今回2018年3月中旬に,まず蘇州市における緑化状況について,緑化管理局長と実際に現場で作業を行っている大手法人から概要を聞き,現場の苗圃などを見学した。(1)高鉄(中国の新幹線)の駅について,蘇州,蘇州北,昆山各駅の整備を中心に地下鉄網が整備されている。これらに関係する建設事業が,緑地に配慮しながら一体化され,迅速に進行している。(2)蘇川市は揚子江の下流沖積地に位置し,太湖をはじめ湖沼,川,運河が多い。沿岸の保全と環境の調和状況は,河北潟を抱える金沢市に参考となる。(3)主要な緑を保つ樹種は,クス(楠,樟)の他に訪問時に開花していた深山吟笑(タイサンボクに似た白い花),サクラ,ツバキなどがある。(4)現場の緑化技術関係者らが日本から指導や導入を希望する技術は,枝の剪定,竹などを使った柵作り,縄しばり,石積み(筑庭)などである。(5)蘇州市には留園や拙政園,虎丘,獅子林,滄浪亭など5つの世界遺産があり,樹齢数百年という立派な盆栽もある。(6)緑化保全の背景で関連する書,絵画,茶器(陶器),呉服(刺繍,絹),道・家具などについても認識を相互に深めたいと考えた。 日本は現状が続くと,今後10年余で少子化,人口減少により老齢化社会に突入すると予測されている。ここで述べた緑の景観,環境維持への社会資本投資により,健康寿命を延ばし,生産人口減少を部分的に補うことも求められている。癒し環境の維持,またこの管理作業に関わる代替看護(園芸フォレスト,土いじりセラピー)などの選択は,今後不可欠となる状況にある。また,健全な緑環境の保全維持は,平和な産業社会発展に必須な基礎的社会資本の1つであることを私たちはこの実証的研究で示したいと考えている。

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