コッホの postulates と川崎病のA群溶連菌感染症説 : I. Germ theory の変遷

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パスツールとコッホによる感染症の特異病原体説(germ theory)の確立とコッホによる同定細菌学と呼ばれる新しい術式の開発に伴い,前世紀の最後の20年間に,ほとんど大部分の細菌性感染症の病原は決定されてしまった。しかし,多くの bacteria hunters の功名心に駆られた行動は幾多の誤った判定を招き,発足したばかりの微生物学に混乱を引き起こした。そこで,提唱されたのがコッホの postulates であった。これは俗に,コッホの3条件ともいわれており,分離された微生物が感染症の特異病原体であると主張するからには,これだけは満足しなければならないという3つの条件をいう。この条件は,コッホが最初に手掛けた炭疽や結核症では立派に満足されたものの,これもコッホの発見にかかるコレラ菌では満足されないというように,発表の当初から批判が少なからずあった。しかし,何分にも微生物学の泰斗が提唱されたものだ捌こ,現在でもこれに固執する研究者が後を絶たない。微生物学のその後の発展は,コッホの postulates をそのままの形で残存させることを許さない情況に至ったので,筆者らは己の非才を顧みず小文を草して同憂の士に頒たんと思い立った。第1部ではコッホの時代より現在に至るまでの微生物学の発展を踏まえての germ theory の変遷を概観し,第2部^<8)>では筆者らの川崎病A群溶連菌感染症説を採りあげて,この細菌がコッホの postulates の一つをも満足し得ないにもかかわらず,その主張の正当である所以を説明させて頂いた。

収録刊行物

  • 北里医学

    北里医学 20 (1), 1-5, 1990-02-28

    北里大学

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