方言における動詞活用体系の変化過程 : 高知県幡多方言を事例として

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本発表は,高知県幡多方言の動詞活用体系において現在進行中の変化を資料として,動詞活用体系の変化過程,およびその要因について述べるものである。考察にあたって,年齢の異なる話者の体系記述の比較から変化の過程を捉えることを試みた。資料は当該方言話者3名(老・中・若年層から各1名)に対して行った面接調査の結果を用い,補助的資料としてこれらの話者の談話資料も参考にした。調査結果から,以下の2種類の変化が起こっていることが明らかとなった。1.一段・カ変・サ変動詞のラ行五段化:過去否定形の見ラッタを見ララッタという語形にする変化。この変化は老年層の段階で発生しているものの,若年層では衰退傾向にある。2.使役・可能形の二重形式化:行ケル・行カスなどの語形をそれぞれ行ケレル・行カサスのような語形にする変化。この変化は非ラ行五段動詞>ラ行五段動詞の順に進行し,ラ行五段化と相俟って活用型間で周期的な変化過程を見せる。1.の変化が過去否定形に起こる要因として,「形式と意味との対応の不透明さ」というものが考えられる。すなわち,否定体系の中で見ラッタのような形式が不安定になることから,それを解決する方法としてラ行五段動詞に語形を合わせる変化が起きたものと考えられる。2.の変化は「分析化」という要因で説明される。従来用いられていた使役動詞・可能動詞といった語彙的な形式を分析的に引き戻すためにレル・サスという接辞を析出し,五段動詞に適用したものと考えられる。ラ行五段化がラ行五段動詞の影響による一段・カ変・サ変動詞の変化であるのに対して・二重形式化は一段動詞の接辞を五段動詞に適用する変化である。このことから,動詞活用体系内の変化は「五段動詞→その他の動詞」という方向のみに起こるのではないということがわかる。本研究では個人体系の記述を重ね合わせることによって,変化の過程を詳細に観察することができたと考える。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1572261551982244736
  • NII Article ID
    110002533763
  • NII Book ID
    AN00087800
  • ISSN
    04913337
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • CiNii Articles

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