小麦粉の生地物性を強める低分子量グルテニンタンパク質の同定とその育種的利用に関する研究

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抄録

1. 本研究の目的は、小麦粉の生地物性を強める低分子量グルテニンサブユニット(LMW-GS)を同定し、育種を効率化するためにこれを検出するDNAマーカーを開発することである。2. カナダ産超強力春まきコムギ品種「Glenlea」のLMW-GS GL1とGL2が準同質遺伝子系統「NIL」や「Glenlea」の非常に強い生地物性に寄与していることが示唆された。3. GL1とGL2は共分離し、GL1/GL2と国産強力コムギ品種「春のあけぼの」のHA1のコード遺伝子は対立関係にあることがわかった。また、GL1/GL2とHA1はGlu-B3に支配されると考えられた。4. 超強力粉並みの生地物性の強さを持つ米国産秋まきコムギ系統「KS831957」の生地物性にLMW-GS KS1~KS5が関与していると考えられた。5. KS3は2D-PAGEにより4つのLMWGスポットに分離されたが、そのうち塩基性側の2つのスポットだけが「勝系34号」に導入されていたため、この2スポットをKS3aと命名した。KS2とKS3aは共分離し、KS2/KS3aと国産中力コムギ品種「ホロシリコムギ」のHS1のコード遺伝子が対立関係にあることが確認された。6. KS2/KS3aと高分子量グルテニンサブユニット(HMW-GS)5+10のコード遺伝子は交互作用して生地物性を強めた。7. GL1、GL2、HA1はそれぞれKS2、KS3a、HS1と電気泳動における分離パターンが酷似し、N末端アミノ酸配列も一致したことから、これらはそれぞれ類似した機能をもつ分子種と考えられた。8. KS2/KS3a(GL1/GL2)とHMW-GS 5+10の両方を併せ持つコムギ系統が超強力粉の特段に強い生地物性を持ち得ると考えられた。9. 「Glenlea」のLMW-GS遺伝子(GLEN42K)と「KS831957」のKANS2は「春のあけぼの」のHARU48Kや「ホロシリコムギ」のHORO1より短い反復配列を持っており、既知のLMW-GS遺伝子には見られない15のグルタミン(Q)からなるモチーフを持つことから、新規のLMW-GS遺伝子であると考えられた。10. GLEN42KはGL1/GLの、HARU48KはHA1の候補遺伝子と考えられた。また、「KS831957」のKANS2はKS2/KS3aの、「ホロシリコムギ」のHORO1はHS1の候補遺伝子と考えられた。ただし、それぞれの候補遺伝子が各LMW-GSのコード遺伝子とそれぞれ密接に連鎖している可能性も否定し切れない。11. 既報のG3グループのLMW-s遺伝子はすべてシグナルペプチドの数残基のデータが欠けているが、HARU48K、GLEN42K、KANS2、HORO1はORFを完全に含むG3グループのLMW-s遺伝子としては最初の報告となった。12. プライマーs-F1/s-R2を用いて増幅されるDNA断片はKS2/KS3a(GL1/GL2)のコード遺伝子を検出するDNAマーカーとして利用できる。またこのマーカーによる選抜で超強力コムギ系統を効率的に育成できる可能性が示された。

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