アルコールをとりまく産業保健 : アルコール症による精神症状とその対策

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我が国のアルコール依存症(ア症)と推定される大量飲酒者は推計で220万人とされ、概ね80%以上の男性、40%の女性が飲酒習慣を持つとされる。これは欧米に比べると低いが、アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の能力が先天的に低い者が多い日本人の人種特性を勘案すると、いわゆる酒が飲める人の多くは飲酒習慣を持つといえる。社会にストレスが増えてアルコール消費量も増え、ア症者も増加してきているが、特に女性の高学歴化、社会進出に伴って、女性のア症者も増加している。さてア症が示す精神病状態の頻度について鈴木は静岡県下のアルコール専門病院での経験から、ア症者の34%に精神病の診断が下されて、最も頻度が高いのは振戦せん妄で12%、次いでアルコール幻覚症7%、てんかん様けいれん発作6.6%であると報告している。しかし、このような精神症状のほか、最近ではア症とうつ病との合併、関連が問題になってきている。ア症による二次性うつ病は、臨床的に多いにもかかわらず気付かれていない場合が多い。ア症による睡眠構築の変化や夜間の深部体温の上昇など生物リズムの変化はうつ病者にも同様にみられ、うつ病者で観察されるコルチゾール分泌亢進やデキサメサゾンによるコルチゾールの脱抑制がア症にも認めるとされる。つまり極論すれば飲酒によってうつ病が誘起されるという考え方がある。われわれが某企業で行ったうつ病に対するコホート研究においても、うつ病発症の危険因子の一つとして過飲があげられた。シンポジュムにおいてはア症による二次性うつ病の臨床症状、特徴をアルコール専門病棟での研究成果から述べ、産業医学の現場でのア症の問題点をうつ病発症の観点から論じ、うつ病発症の予防としてアルコールの過飲を警鐘したい。

Journal

  • Journal of UOEH

    Journal of UOEH 24 (1), 85-, 2002-03-01

    The UOEH Association of Health Sciences

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