平安時代の副助詞「だに」について : 『源氏物語』を中心に

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説明

助詞「だに」についての考察は先学の諸研究によりすすめられている。「だに」の意味が「せめて〜だけでも」と最小限を取り上げ,それ以外のものを暗示・類推させることは定説とされており,「だに」が命令・願望・仮定・意志・否定等といった未定叙述へ係り続くのが一般的であることは共通理解といえよう。このことから「だに」は係助詞的機能を持ち,副助詞の中でも特異な性質を持ったものとして扱われてきた。しかしながら『万葉集』『古今和歌集』と時代が下るにつれて係り続く語や卓立する語などの構文的な限定は少なくなっているように見える。また本来「だに」が最小限を取り上げ,それ以外のものを暗示・類推させるのであるなら,「だに」の表現の中心は言外の類推されるべきものにあったと考えられる。しかしながら『古今和歌集』の「だに」には類推される事柄ではなく,言葉として表に出た事柄に表現の焦点が移った例と考えられるものが見え,『万葉集』と比較しても,その傾向がより強いと言える。そこで,散文資料である『源氏物語』(桐壼〜少女)の「だに」と『万葉集』『古今和歌集』で見られた「だに」とを比較・検討し,平安時代の「だに」の状況について考察した。『源氏物語』においては「だに」が既定叙述に続く例が大幅に増加している。未定叙述に続く例においても,本来的用法とは離れ「すら」「さへ」に近付いたと見える用例が増えている。また「だに」の類推機能は弱化していく傾向にあるようである。この「だに」の変質は現時点では時代的変化であると見ているが,韻文と散文という資料性の違いによるものである可能性もあり,より厳密な考察が必要だと考えている。今後は,構文的条件のみでなく,「だに」が何を暗示・類推しているのか,何を表現しているのかということも含め,「だに」「すら」「さへ」三語の関わりも視野に入れつつ,国語史的な流れの中で考察していきたい。

収録刊行物

  • 國語學

    國語學 52 (1), 91-, 2001-03-31

    日本語学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1573668926866803840
  • NII論文ID
    110002533694
  • NII書誌ID
    AN00087800
  • ISSN
    04913337
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • CiNii Articles

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