唐代州刺史研究: 京官との関連

抄録

唐代において、州刺史ほどそれに当てる人材を確保するのに、皇帝以下朝廷首脳部が腐心し議論の対象となった官は少ないであろう。州刺史は国家の基底部たる各地方の民政を掌る地方行政機構の最高官であるが故に、朝廷首脳部が州刺史に起用する人材によく注意を払っていたことは、太宗が侍臣に「人を治むるの本は、刺史の最も重きに如くはなきなり。」と語り、屏風上に刺史の姓名を記して常に眺め、勤務評定をその下に書き込んだという事実から、その一端がうかがえる(『唐会要』六八刺史上、『貞観政要』三択官、『通典』三三職官典一五郡太守)。州刺史は農民を主体とする地方民にとり、唐朝の統治を具体的に施行し自分たちの利害得失に直接関わる存在であり、一方唐朝にとっては州刺史の人材の好悪が唐朝の基底部たる地方行政を左右するが故に、関心の対象とされたのは当然であろう。ここで従来の研究を振り返ると、唐朝の地方統治の要にもかかわらず、唐代の州刺史に関する専論は、築山治三郎氏の手になる「唐代の刺史について」並びに『唐代政治制度研究』第二節「地方官僚の遷転と考課」第五章「官僚の選授・考課・俸禄」の2篇があるのみである。一九八七年には、郁賢皓氏が編纂した『唐刺史考』全五巻(江蘇古籍出版社)が上梓された。これは『旧唐書』・『新唐書』・『全唐文』・『文苑英華』・各地方志の文献資料に加えて、墓誌をも併わせて、唐代の州刺史の被任命者・任命時期・任官地を十五道に分けて、網羅的に整理した一大資料集である。郁氏の編んだ資料集が世に出たお蔭で、唐代の州刺史について以前より個別具体的に知ることが容易となり、それに伴ない唐代の州刺史に関する研究はより深化する可能性が生まれたのである。先行する築山氏の研究も、補正の必要が生じてくるものと考えられる。小論では、築山・郁両氏の成果を手がかりに、唐朝による州刺史の任官状況の一端をうかがい唐朝の地方統治のあり方を素描しようと思う。最初に考察の糸口を得るために、唐代における州刺史の選定に関する議論を一瞥しよう。

収録刊行物

  • 奈良史学

    奈良史学 (9), 27-51, 1991-12

    奈良大学史学会

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