CSR活動の経済分析:環境パフォーマンスの評価・要因分析を中心として

書誌事項

タイトル
CSR活動の経済分析:環境パフォーマンスの評価・要因分析を中心として
タイトル別名
  • CSR カツドウ ノ ケイザイ ブンセキ カンキョウ パフォーマンス ノ ヒョウカ ヨウイン ブンセキ ヲ チュウシン トシテ
著者
遠藤, 業鏡
著者別名
  • エンドウ, カヅミ
  • Endo, Kazumi
学位授与大学
学習院大学
取得学位
博士(経済学)
学位授与番号
32606甲第288号
学位授与年月日
2020-03-31

説明

企業の社会的責任(CSR)に対する関心が急速に高まっている。一つの理由は、地球温暖化や貧困などグローバルな問題の存在が強く認識されたことで越境するガバナンスに対する期待が高まっていることにある。CSRという言葉は多義的に使われてきたため、議論を進めるに当たって類型整理は有益である。第1章ではその準備として、社会的責任のガイドライン(ISO 26000)の内容を逐語的に確認する。第2章ではCSRの3類型(消極的CSR、戦略的CSR、公益的CSR)を提示し、その正当化根拠に対して順次検討を加える。上場会社のような営利法人の場合、自らが加害責任を負っていない他者の窮状救済を目指す公益的CSRは許容されず、選択しうる類型は消極的CSRと戦略的CSRに限定されることを明らかにする。ステークホルダーへの配慮を法令順守に限定する消極的CSRは、他社が同様の行動を取ったとき自社にも危害が及ぶという点で機能的な自壊性を抱えているばかりか、NGO等による名指しの批判や消費者や投資家による共同体的サンクション(ボイコットやダイベストメント)によって企業の存続を危うくする可能性すらある。ステークホルダーを包摂しながら利潤を追求する戦略的CSRはこのようなリスクがないため、現代社会では有用性が高まっていることを示す。第3章はCSR研究で行われてきた実証分析を概観するとともに、CSR指標の測定方法について解説を加える。実証分析の一つ目のアプローチは、CSR指標が企業価値などに及ぼす影響を考察するアウトカム分析である。二つ目のアプローチは、CSR活動の決定要因を分析するものである。国際学界におけるCSR研究のめざましい進展にも関わらず、日本国内での研究の蓄積は十分とは言えない。ガバナンス変数と関連付けた決定要因分析に限ってみれば、ほぼ未開拓の状態である。こうした大きな間隙を多少とも埋めるために、日本経済新聞『環境経営度調査』の総合スコアを環境パフォーマンス(CEP)に用いて第4章ではアウトカム分析を、第5章では決定要因分析を行って国内のCSR活動を複眼的に考察する。 内生性や系列相関を考慮したアウトカム分析において、CEPは企業価値に対してプラスに作用していたが、統計的に有意ではなかった。決定要因分析において、CEPは「経営の質」を表す変数と有意な正の相関を示したので、CEP指標の信頼性が低いため企業価値との関係が見いだせなかったという解釈は説得的でない。市場参加者によるESG情報の織り込みが不十分であったため、価値関連性が見出せなかったという解釈が妥当だと判断する。類型整理と関連付けると、消極的CSRを棄却できるほどCSR活動(環境経営)のアウトカムは高くないという含意になる。CEPの決定要因分析では、取締役のアドバイス機能が観察される一方、海外のブロックホルダーによるモニタリング機能も観察された。そのため、少なくとも環境経営においては、株主とステークホルダーとのパワーバランスは保たれていると判断できよう。第6章で本論文を総括するとともに、ガバナンス改革やCSR実務への示唆を提示する。株式会社の存在価値を正しく認識し、投資家・消費者による「責任の共鳴」をさらに大きくしていくことがグローバルな問題の軽減に役立つことを指摘する。

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