Skull morphology and genetic variation of the Kuril harbor seal (Phoca vitulina stejnegeri) and the spotted seal (Phoca largha) around Hokkaido, Japan

Bibliographic Information

Title
Skull morphology and genetic variation of the Kuril harbor seal (Phoca vitulina stejnegeri) and the spotted seal (Phoca largha) around Hokkaido, Japan
Other Title
  • 北海道沿岸に生息するゼニガタアザラシ Phoca vitulina stejnegeri とゴマフアザラシ Phoca largha の頭蓋骨形態および遺伝学的比較
Author
Nakagawa, Emiko
Alias Name
  • 中川, 惠美子
University
Hokkaido University
Types of degree
博士(獣医学)
Grant ID
甲第9488号
Degree year
2010-03-25

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Description

北海道沿岸には5種のアザラシ類が生息あるいは回遊しており,中でも個体数が多いのがゼニガタアザラシおよびゴマフアザラシである.近年,両種ともに個体数の増加が報告されており,それに伴って沿岸漁業への被害や混獲によるアザラシの死亡個体数も増加している.沿岸生態系において高次捕食者に位置するアザラシ類の個体数変動は,下位の生物相にも大きな影響を与える.日本で唯一通年生息しているゼニガタアザラシは絶滅危惧ⅠB類として環境省が管理しており,北海道内では個体数の60%以上がえりもと厚岸に集中している.それに対して,冬から春に北海道の日本海およびオホーツク海沿岸に来遊するゴマフアザラシは,環境省ではなく北海道の管理下にある.アザラシの漁業被害量や混獲死亡個体数は地域差が大きく,さらに両種が同所的に生息している地域もある.しかし,それらの多くはどちらか一方を対象としたものであり,分類学的に近縁な2種の相違をより明確にするためには,2種を対象とした比較研究が必要である.本研究では,北海道沿岸に生息するゼニガタアザラシとゴマフアザラシについて,形態学的および遺伝学的比較を行った.ゼニガタアザラシとゴマフアザラシの成長に伴う頭蓋骨形態の変化を調べたところ,ゼニガタアザラシでは幼獣の段階から雌雄差が認められた.また,ゴマフアザラシよりもゼニガタアザラシの方が大型であることもすべての成長段階で認められた.ゴマフアザラシは1980年代には雌雄差がほとんど認められないと報告されていたが,本研究では特に咀嚼機能に関与する計測部位で雌雄差が認められた.これは近年の個体数増加に伴って,繁殖競争や餌生物を巡る競争が激化したためではないかと考えられた.成長段階による頭蓋骨の非計測的特徴の変化を調べたところ,側頭頬骨縫合と鼻骨切歯縫合の形状には種差が認められた.また,両種は幼獣の段階では特徴が類似しているが,成長に伴ってゼニガタアザラシの形状が変化して種差が明確になっていくことが明らかとなった.mtDNA・チトクロームb領域配列の解析の結果,ゼニガタアザラシではえりもの個体のハプロタイプ多様度が他に比べて低く,系統樹でも厚岸や納沙布の個体とは異なる集団に分かれることが認められた.このことから,北海道沿岸のゼニガタアザラシはえりも個体群と道東個体群が存在することが明らかとなった.それに対して,ゴマフアザラシのハプロタイプは多様であり,系統樹でも明確な地域個体群を認めることは出来なかった.この個体群の有無は両種の生態学的相違を反映しており,上陸場への定着性の強いゼニガタアザラシが明確な地域個体群を示したのに対して,回遊性があり特定の上陸場への定着性があまりみられないゴマフアザラシには地域個体群が認められないということが確認された.mtDNAとSRYによる両種の種間交雑判定を試みたところ,えりものゼニガタアザラシ28個体中1個体とゴマフアザラシ5個体中2個体で,斑紋と異なる種のmtDNAハプロタイプを持つことが確認された.その他の地域では,すべての個体は斑紋と同じ種のmtDNAハプロタイプを示した.しかし,SRY配列を調べたところ,ゼニガタアザラシとゴマフアザラシは同じ配列であり,SRYハプロタイプを利用して交雑判定を行うことは不可能であった.しかし斑紋とmtDNAハプロタイプが異なる個体が確認されたことから,えりもで種間交雑が生じている可能性が考えられた.本研究の結果から,北海道沿岸に生息するゼニガタアザラシとゴマフアザラシの頭蓋骨形態の成長に伴う特徴,mtDNAによる地域個体群の存在有無,種間交雑個体の存在の可能性が示された.特に,えりも地域では遺伝的特異性の高いゼニガタアザラシの地域個体群が認められるとともに,ゴマフアザラシとの交雑が生じている可能性も考えられた.従って,北海道におけるアザラシ類の保護管理を行う上で,えりも地域のモニタリングを重点的に進める必要があると考えられた.アザラシ類や沿岸漁業を含めた沿岸生態系の保全管理を実行していくにあたり,本研究の結果を基盤として,更に多様な調査研究へと発展させていくことが望まれる.

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