熱力学特性を改善した鉛プラグ入り積層ゴム免震支承の開発
書誌事項
- タイトル
- 熱力学特性を改善した鉛プラグ入り積層ゴム免震支承の開発
- タイトル別名
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- Development of Lead-Rubber Isolation Bearings with Improved Thermo-Dynamic Behavior
- 著者
- 和氣, 知貴
- 学位授与大学
- 北海道大学
- 取得学位
- 博士(工学)
- 学位授与番号
- 甲第13797号
- 学位授与年月日
- 2019-09-25
説明
2003年十勝沖地震,2011年東北地方太平洋沖地震において長周期長時間地震動が観測され,免震層の固有周期に近い長周期成分を持つ地震動が長時間にわたり免震建物に入力される事象が現実に起きうることがわかってきた.このとき,免震装置は大きな変形を多数回繰返し受けることが考えられる.主要な免震装置の一つである鉛プラグ入り積層ゴム支承(Lead-RubberBearings:以下LRBと称する)では,減衰材である鉛プラグがエネルギーを吸収することにより発熱し鉛プラグの温度上昇によりエネルギー吸収性能が低下することが懸念され,長周期長時間地震動への対応が求められるようになった.LRBのエネルギー吸収性能の低下を予測する手法としては,鉛プラグの温度と降伏応力度を関係づけたLRBの降伏荷重評価式を用いた熱力学連成挙動解析が有効である.一般的に降伏荷重評価式は,鉛プラグ温度が上昇するとLRBの降伏荷重が低下する関係にある.このことは,逆の見方をすると,繰り返し変形を受けるLRBの鉛プラグの温度上昇を抑制することができれば,エネルギー吸収性能の低下を抑えられることを意味する.本論文は,鉛プラグの温度上昇を抑制することにより,エネルギー吸収性能の低下を抑えた高耐久LRBを実現するための具体策とその効果を解明したものであり,全5章で構成される.第1章「序論」では,本研究の背景と目的について述べ,長周期長時間地震動により多数回繰り返し変形を受けるLRBの熱力学的挙動に関する既往の研究について分析し,課題を抽出した.また,課題を解決するための検討項目について整理し,それらの具体的な研究手法について説明した.第2章「高耐久LRBの開発」では,エネルギー吸収性能の低下を抑えた高耐久LRBとして,LRBの内部鋼板の熱容量を大きくした高熱容量LRB,および鉛プラグを分散配置したマルチプラグLRBを新たに考案して製作し,加力実験を実施した.実験により,これら2種類の高耐久LRBはエネルギー吸収性能の低下を抑制する効果があることを検証した.この効果を解析的に評価するために,従来の積層ゴム中央に鉛プラグを配置したシングルプラグLRBに対しては二次元軸対称の有限差分法モデルを,本研究で提案したマルチプラグLRBに対しては三次元有限差分法モデルを用いた熱力学連成挙動解析を実施した.有限差分法(FiniteDifferentialMethod)により鉛プラグの発熱と周囲への放熱を考慮した熱力学連成挙動解析(以下FDM解法と称する)の結果は実験結果をよく表現できていることから,解析的にも高耐久LRBはエネルギー吸収性能の低下を抑制する効果があることを確認した.また,地震応答解析から高耐久LRBは鉛プラグ温度上昇を抑制し,長周期長時間地震動に対する免震建物の応答特性を改善する効果があることを確認した.第3章「LRBの降伏荷重評価式の提案」では,エネルギー吸収性能を算出する際に用いるLRBの降伏荷重評価式を新たに提案した.既往の降伏荷重評価式は,積層ゴム(RubberBearings:以下RBと称する)の非線形性の影響,高温時および低温時における降伏荷重と鉛プラグ温度の関係,加力速度の影響について十分に考慮されていない.加力条件によりLRBのエネルギー吸収性能を過小評価することが考えられたため,精度の高い降伏荷重評価式を新たに提案した.提案するLRBの降伏荷重評価式では,LRBの降伏荷重を鉛プラグの降伏荷重とRBの切片荷重の和であると定義し,鉛プラグの降伏荷重とRBの切片荷重をそれぞれ独立に評価することによりLRBの降伏荷重評価式を構築した.評価式の妥当性検証にあたり,FDM解法に比べてより簡便にLRBの熱力学連成挙動解析が行える定熱流束解析手法(ConstantFluxSolution:以下CFS解法と称する)を新たに導入した.実験結果とFDM解法およびCFS解法による解析結果の三者を比較することにより,降伏荷重評価式の妥当性とCFS解法の適用性を検証した.第4章「鉛プラグの分散配置による熱力学特性の改善効果」では,鉛プラグ径などの形状をパラメータとした実大サイズのシングルプラグLRB,マルチプラグLRBに対して繰り返し加力実験を行い,形状の違いがエネルギー吸収性能に与える影響について検討した.実験結果からマルチプラグLRBはシングルプラグLRBに比べて鉛プラグ温度の上昇を抑制し,エネルギー吸収性能の低下を抑える効果があり,鉛プラグの分散配置により高耐久化できることを検証した.複雑な形状であるマルチプラグLRBの熱力学連成挙動解析は,試験体内部温度の評価に三次元有限差分法モデルを用いる必要があり,そのことが高耐久LRBの普及の障害となっている.そこで,マルチプラグLRBの設計法を簡易にするために,CFS解法および二次元有限差分法モデルを用いた簡易評価法を提案した.有限差分法は,積層ゴムや周囲の構造などを忠実にモデル化することにより,マルチプラグLRBなどの複雑な形状のLRBにも対応できる.一方,CFS解法は熱の移動経路,拡散状態を仮定しているため,マルチプラグLRBへ適用するためには鉛プラグ間の熱的相互作用がないことを確認する必要がある.実大サイズのマルチプラグLRBに対する実験,鉛プラグ本数で分割した形状の分割試験体に対する実験,鉛プラグ間距離を意図的に短くした試験体に対する実験,および三次元有限差分法を用いた熱力学連成挙動解析結果から,繰り返し加力時において鉛プラグ間の熱的相互作用はほとんど生じていないことを確認した.鉛プラグ間の熱的相互作用がほとんど生じていないため,マルチプラグLRBは鉛プラグ本数で分割した形状と等価な形状のシングルプラグLRBとして解析的に扱うことが可能であるとの着想から,マルチプラグLRBの熱力学連成挙動解析においてCFS解法,および二次元軸対称モデルを用いた有限差分法の適用可能性を検証した.第5章「結論」では,本論の成果をまとめた.
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1910302385689001088
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- NII論文ID
- 500001357905
- 500001632559
- 500001364381
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- HANDLE
- 2115/75884
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- Web Site
- https://dl.ndl.go.jp/pid/11378487
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- IRDB
- NDLサーチ