地理情報システムを利用した電力スポット市場価格予測システムの構築

書誌事項

タイトル
地理情報システムを利用した電力スポット市場価格予測システムの構築
著者
中山, 俊太朗
学位授与大学
九州工業大学
取得学位
博士(工学)
学位授与番号
甲第587号
学位授与年月日
2024-03-25

説明

近年、電力の自由化が進んでおり電力の取引の場として、電力市場の取引量が増大している。電力市場には先渡市場、スポット市場、時間前市場などの市場があり、それぞれの特徴に応じて取引が行われているが、取引量が最も多いのがスポット市場である。スポット市場は一日前市場とも呼ばれており、翌日の電気の取引が行われている市場である。スポット市場の価格は需要と供給のバランスで決定されるため、日時により価格が大きく異なるといった特徴がある。そのため、小売電気事業者においては入札前に価格の予測が可能であれば、安い時間帯に電力を購入し蓄電池等にため、高い時間帯に放電することで電力購入コストを低減することが可能である。 本研究において、スポット市場の価格予測を高精度に行うことを目的に研究をおこなった。スポット市場価格は需要と供給のバランスで決定されるため、価格予測システムの構築にあたり、需要と供給を詳細に説明できる説明変数の導出が必要である。筆者は需要と供給を説明する説明変数の一部が地理的な位置と関係があることに着目し、地理情報システム(GIS)を利用した価格予測システムの構築を行った。また、スポット市場価格予測システムの構築にあたり、ランニングコストを抑えることが必要となる。そのため、安価な気象予報とオープンデータの活用により、価格予測システムの構築を行った。 需要の要因としては、エアコンの消費電力量があげられる。エアコンの消費電力量は気温と関係を持つ一方、地域全体のエアコンの消費電力量を考慮する場合には人口も関係してくる。人口が多い地域ではエアコンの設置台数が多く、例えば夏場に気温が高いと消費電力量が大きくなり、地域全体の需要へ影響を及ぼす一方、人口が少ない地域ではこの影響が少ないためである。このエアコンの消費電力量を説明するために、GIS上で気温予報データと市町村ごとの人口データを重ね合わせることで「人口気温データ」の導出を行った。 供給の要因としては、近年導入量が増加している太陽光発電の発電量があげられる。特に電力需要の少ない春、秋においては太陽光発電の余剰によりスポット市場価格の下落が発生している。太陽光発電の発電量には、日射量が関係する一方、地域全体の太陽光発電の発電量を予測するためには、太陽光発電の導入量も関係してくる。そのため、GIS上で日射量予報と、市町村ごとの太陽光発電導入量を重ね合わせ、「予測太陽光発電量」の導出を行った。 太陽光発電の余剰と関連し、JEPXの最低取引価格である0.01円/kWhで電力が取引されることがある。これは、低需要期に太陽光発電の発電量が過剰な場合、供給過多に陥りこの最低価格で取引されるために発生する。筆者はこの最低価格の出現に着目し、最低価格の出現傾向を分析し、最低価格の出現傾向には、月の要素、曜日の要素、太陽光発電量の要素、出現傾向の要素があることを明らかにした。そのうえで、これ らの要素を使用し「最低価格出現予測変数」の導出を行い、最低価格の出現を予測できる変数を導出した。 これらの三要素に加え、需要を説明する説明変数として日付と曜日データ、供給を説明する説明変数として、燃料価格と発電所の稼働状況を準備した。また、気象とスポット市場価格に関係があることに着目し雲量を、原子力発電所の稼働状況とスポット市場価格に関係があることに着目し、原子力発電所の稼働状況を加え価格予測システムの構築を行った。価格予測システムは、価格の予測を行う回帰モデルと、最低価格の出現を予測する分類モデルで構成されている。予測対象日前日までの説明変数とスポット市場価格でモデルの学習を行い、予測対象日の説明変数を利用することで予測を行うモデルとなっている。また、分類モデルが最低価格の出現を予測した場合、回帰モデルの出力を最低価格である0.01円/kWhとすることで最低価格の予測を可能としている。 本予測モデルで、九州エリアのスポット市場価格を対象に予測を行った。予測シミュレーションの結果、従来の手法よりも高精度に予測が可能であることを示すことができた。また、最低価格の出現を予測できるモデルであるため、小売電気事業者にとっては電気を購入するタイミングを検討しやすい予測モデルとなっている。また、高精度な気象予報であるMSMを使用した場合の価格予測シミュレーションも行い、誤差が低減されることも確認した。本予測モデルの利用により、小売電気事業者は蓄電池等との組み合わせで需要家に対し安価に電気を提供することができ、需要家の電力コストの抑制が期待される。また、発電事業者にとっても、売電する時間帯を蓄電池等との組み合わせで安い時間帯から価格の高い時間帯にずらすことで売電収益の向上が期待される。

目次

第1章 緒論| 第2章 電力市場とGISの概要| 第3章 GIS利用の説明変数の導出とスポット市場価格予測システムの構築| 第4章 最低価格の出現傾向の分析と価格予測への応用| 第5章 さらなる予測誤差低減に向けた検討| 第6章 予測の評価と既存手法との予測精度の比較| 第7章 結論

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