Energy accumulation and starvation tolerance of the embayment copepod Acartia steueri Smirnov (Calanoida: Acartiidae)

Bibliographic Information

Title
Energy accumulation and starvation tolerance of the embayment copepod Acartia steueri Smirnov (Calanoida: Acartiidae)
Author
平原, 南萌
Author
HIRAHARA, MINAMO
University
創価大学
Types of degree
博士(工学)
Grant ID
甲第166号
Degree year
2019-03-18

Description

内湾生態系は、潮汐、陸水の流入、複雑な海底地形、人間活動の影響を直接受け、絶えず生物種の移入・消失による生態系の構造変化や、生物生産の変動が起きている。内湾域の生物多様性は、沿岸域や外洋域と比較して低く、内湾生態系において再生産を行って優占する生物種は限られている。内湾域の植物プランクトン量は、短期間のうちに急激に減少し、その後低濃度餌料環境が形成され、内湾性かいあし類は頻繁に餌不足に曝される。内湾性かいあし類は、このような変動の激しい餌環境に対して生理的な耐性メカニズムを持つことで適応し、個体群を維持しているものと考えられる。本研究は、飢餓に対する内湾性かいあし類の生理的耐性メカニズムを明らかにするために、西部北太平洋内湾に広く優占するかいあし類Acartia steueri Smirnovを対象種とし、(1)本種のエネルギー蓄積特性と、(2)飢餓状態における生物学的応答を研究した。エネルギー蓄積特性については、飽食条件および飢餓条件でそれぞれ10日間培養したA. steueriメス成体1個体あたりの前体部長、乾燥重量、生化学組成を測定した。くわえて、飽食条件のメス成体、卵、糞粒のアミノ酸量、アミノ酸の窒素同位体比を測定してアミノ酸のエネルギー収支を調べた。内湾、沿岸、外洋性かいあし類約50種の体長-体重の関係は、1つの回帰式で表されたが、本研究のA. steueriはこの回帰式から大きく乖離し、体長に比して、極端に重量が高いことが明らかとなった。60oC、24 hにおける本種の乾燥重量は、80 oC、100 oC、120oCの高温条件下で乾燥させると顕著に減少したことから、たんぱく質分子を覆う結合水が含まれていると示唆された。脂肪酸量、アミノ酸量、アミノ酸の窒素同位体比からは、卵・糞粒生産および代謝に利用した後の余剰分のアミノ酸を体内に蓄積し、脂肪酸を主とする他の生化学組成へ常時生合成することで、短期間のエネルギー蓄積を可能にすることが示唆された。飢餓条件における生物学的応答は、生残率、卵生産速度、糞粒生産速度、呼吸速度を測定した。生残率、卵生産速度、糞粒生産速度を調べるための、20日間における飢餓実験は、2日もしくは5日間、高濃度の餌料条件に曝した後、個体維持に必要な最低限の濃度条件と飢餓条件に曝す、計4条件を設定した。高濃度条件後の飢餓環境下で、A. steueriは15日間卵生産を継続し、18日以上生存した。A. steueriは、内湾性種の中で長い飢餓耐性日数を示し、飢餓環境下で卵を生産し続ける期間が長く、現場環境下における極めて低濃度の餌料環境下でも代謝・卵生産を継続し、次の好適な餌料環境が訪れるまで個体群を繋ぐことができる。飢餓条件における呼吸速度は、高濃度条件よりも1.5-3分の1、低い値を示したことから、本種は飢餓状態では呼吸量を低く保ち、エネルギーを卵生産に分配することで、長期間卵生産を継続することが明らかとなった。本研究は、A. steueriの飢餓に対する生理的な耐性メカニズムとして (1)遊離アミノ酸を利用した、短期間の速やかなエネルギー蓄積能を有すること、(2)飢餓状態における代謝や卵生産へのエネルギー分配を変化させることを解明した。このような本種の飢餓耐性は、変動が絶えず起こる、生物多様性の低い内湾生態系で個体群を維持するために必要不可欠な生存戦略であると言える。

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