雪室貯蔵によるさつまいもの成分と機能性の変化について:雪室モデルを用いた検討

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  • セツシツチョゾウ ニ ヨル サツマイモ ノ セイブン ト キノウセイ ノ ヘンカ ニ ツイテ : セツシツモデル オ モチイタ ケントウ

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抄録

多雪地域である新潟県では、古くから雪下貯蔵や雪中(雪室)貯蔵などの雪利用貯蔵が行われてきた。雪室貯蔵の方法としては、室内の貯雪庫に雪を蓄える「氷室型」と、雪で覆われた貯蔵庫を用いる「雪室型」に大きくわけられるが、いずれも低コストで年間を通した低温環境を保つことが可能であり、新潟県内にも多くの雪室が存在していた。電気冷蔵庫の普及により、平成に入るまでにそのほとんどが姿を消したが、近年ではこの二酸化炭素を排出せず環境にやさしい「雪冷熱エネルギー」が見直されており、雪室のような食品貯蔵を目的とした雪冷熱利用施設も年々増加している。 雪室は空気変動や振動を与えず、温度0 ℃付近、湿度90%以上の安定した低温高湿度を維持できることから、その高い保存性を目的として農作物を中心に利用されてきた。近年ではその食味向上効果が注目されており、例えばじゃがいもの雪室貯蔵では、植物が凍結抵抗性を得るための「低温馴化」作用により、デンプンの糖化が進行して遊離糖が大きく増加し、甘味が増加することが報告されている1 )。また、雪下貯蔵の代表例である雪下人参についても、通常の秋収穫人参よりも香りが強く、アミノ酸が増加して味が濃くなることが報告されている2 )。さらに、雪室の0 ℃付近の低温は酸化反応が緩やかであり、食品の品質低下やオフフレーバー(劣化臭)の生成を防ぎながら低温熟成させることができることから、いくつかの加工品についても雪室貯蔵の有効性が示されている。新潟県立大学においても、コーヒー3, 4 )や小麦粉5 )、発酵チーズ6 )のような加工食品において、雪室貯蔵により品質保持・食味向上効果がみられることを報告している。 食品の機能は「栄養」、「嗜好」、「生体調節性」の3 つに分けられるが、高付加価値化のためにはそのいずれかの特性を向上させることが望まれる。上述のように、雪室は食品の保存性と美味しさに寄与することから、「栄養特性」と「嗜好特性」の両面で有効性を持つが、食品の三次機能である機能性の向上に関する報告は少なく、雪室を用いた機能性食品の開発もほとんど行われていない。筆者らは、越後妙高の地域特産物である辛味調味料「かんずり」に関して、雪さらしにより塩蔵唐辛子の食味が向上するのみならず、その抗酸化活性が増加することを報告した7 )。また、新潟県津南町の特産である雪下人参に関しても、抗酸化成分であるリコピンを多く含む京くれない人参を用いた機能性雪下人参が開発されており、高機能性とともに従来の雪下人参と同等の良食味を兼ね備えていることを報告している8 )。ここで、この機能性に特化するメリットとして、「健康ブーム」に代表されるような購買意欲への大きなアピール性が挙げられる。欧米では既に、食品ラベルにORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity、活性酸素吸収能)法9 )で測定した抗酸化性(ORAC値)が表記されており、消費者の購買意欲を促進する基準の一つとなっている。一方、農産物を含め食品には高い抗酸化性を持つものが多くあるが、この抗酸化性が雪室貯蔵でどのように変化するかについての研究例は少なく、抗酸化力を指標とした高付加価値化についての検討もほとんど行われていない。したがって、本研究では食品の機能性の中でも代表的な抗酸化作用に着目し、雪室貯蔵による農作物の成分と抗酸化性の変化を常温貯蔵および冷蔵室貯蔵と比較しつつ検討した。すなわち、比較的長期保存が可能な作物としてさつまいも類(黄色系:紅はるか、紫色系:パープルスイートロードとアヤムラサキ)を選定し、雪室モデルに1 ヶ月貯蔵した場合の抗酸化性の変化をORAC法で測定することにより、抗酸化力を指標とした雪利用貯蔵の有効性について検証を行った。

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