村上春樹「TV ピープル」論 : 一人称視点「僕」について

書誌事項

タイトル別名
  • Haruki Murakami “TV people” theory : The first person perspective “I”
  • ムラカミ ハルキ 「 TV ピープル 」 ロン : イチニンショウ シテン 「 ボク 」 ニ ツイテ

この論文をさがす

説明

「TV ピープル」1は村上春樹の九〇年代の幕開け2を告げる短編集に収録された作品である。本作はテレビのセッティングにやってきたTV ピープルの出現や妻の唐突な家出,一人称表現と主観的な感覚表現によるリアリティに推測表現による不確定さが存在することによって,さまざまな解釈を誘うユニークな作品となっている。本稿は,一人称視点及び他者表現という問題に着目し,それによって作品の再評価を試みるものである。  一人称視点を出発点とした村上春樹は,自分の物語を語る「僕」という語り手を作り出した。語り手「僕」は世の中に対してあらわな疎外感情を抱く人間として造型されている。「TV ピープル」は一人称の「僕」が自分のことを語るだけでなく,他者との関係における自己を語ることを通じて,自己というものを捉えようとする姿勢が見られる物語である。  「TV ピープル」においては一人称による語りは一貫しており,一人称視点に限定された枠組みがきわめて意識的に構築されている。物語は語り手「僕」によって一方的に語られた世界でありながら,TV ピープルの出現によって,他者の言動や振る舞いに立脚して自分なりの解釈を行う「僕」の語りは絶対性を失っていく。即ち,完全な他者であるTV ピープルを導入した本作は,自己の不確かさを次第に強く感じるようになった「僕」により,その不確かな自己を凝視していく視点を孕んだ作品となるのである。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ