国民国家形成期における民俗信仰と葬制の変容 : 鹿児島県与論島の事例から

書誌事項

タイトル別名
  • Transformation of the Folk Religion and the Funeral System during the Period of Nation-State Formation : A Case Study of Yoron Island, Kagoshima Prefecture
  • コクミン コッカ ケイセイキ ニ オケル ミンゾク シンコウ ト ソウセイ ノ ヘンヨウ : カゴシマケンヨロントウ ノ ジレイ カラ

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説明

本稿の目的は,鹿児島県の最南端に位置する与論島の事例から,国民国家形成期において,国家の周縁地域における民俗信仰がどのように変容したのかを明らかにすることである。国民国家論に関する研究では,国民国家形成期には,制度面の形成と同時に領域内の人々もまた新たな制度にふさわしい国民への変容がせまられることが指摘されてきた。本稿では,こうした国民化の過程を,明治期の国家規模での宗教政策と,その受け手となる現地社会の反応という相互作用に注目して検討していく。そのために,明治期における与論島の民俗信仰(シニグ祭祀)と葬制の変容を主たる事例として取り上げる。 まず,明治期以前の与論島の宗教文化について宗教者,葬制,宗教施設の三点から概観した。その上で,明治維新期においては神仏分離と廃仏毀釈という国家規模での宗教再編が,明治10年代以降は衛生思想の導入が,現地の宗教文化を変容させる要因になっていたことを示した。 他方で,与論島では,一度は廃止に追い込まれたシニグ祭祀などの民俗信仰が,台風や干ばつや飢饉といった危機的状況において復活したり,新たに導入された神道式の葬儀も現地の従来の葬儀を形式的・部分的にしか変更していなかったりする事例がみられた。こうした事例から,体制側が焦点化しなかった人々の日常的な宗教実践の場が,従来の民俗信仰を保存しつつ,それらを外部の論理と現地の論理のはざまで新たに創造する場として機能していたことを明らかにした。

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