遺伝的多型の維持機構の体系的理解とその検証における多角的アプローチの重要性(奨励賞(鈴木賞)受賞者総説)

  • 高橋 佑磨
    東北大学学際科学フロンティア研究所:東北大学大学院生命科学研究科進化生態科学講座

書誌事項

タイトル別名
  • A systematic understanding and comprehensive tests of mechanisms maintaining genetic polymorphisms(Suzuki Award)
  • 奨励賞(鈴木賞)受賞者総説 遺伝的多型の維持機構の体系的理解とその検証における多角的アプローチの重要性
  • ショウレイショウ(スズキショウ)ジュショウシャ ソウセツ イデンテキ タケイ ノ イジ キコウ ノ タイケイテキ リカイ ト ソノ ケンショウ ニ オケル タカクテキ アプローチ ノ ジュウヨウセイ

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抄録

種内の遺伝的多型は、種分化の初期過程の例、あるいは遺伝的多様性のもっとも単純な例であることから、古くから理論的にも実証的にも研究が盛んに行なわれてきた。結果として、遺伝的多型に関する研究は、種分化や多様性の維持機構というような進化学や生態学において中核をなす重要なプロセスの理解に大きく貢献している。しかしながら、遺伝的多型の維持機構は実証的には検証が充分であるとはいいがたい。その理由の一つには、生態学者の中で多型の維持機構について正しい共通見解がないことが挙げられる。もう一つの大きな理由は、これまでに示されてきた多型の維持機構に関する証拠は状況証拠に過ぎない点である。選択の存在やその機構との因果性を担保できない断片的な状況証拠では多型の維持機構を包括的に理解することにはならないのである。そこで本稿では、まず、遺伝的多型の維持機構に関してこれまでに提唱された主な説を概説するとともに、それらの関連を体系的に捉えるための"頻度依存性"という軸を紹介する。ついで、負の頻度依存選択を例に、これまでに行なわれた多型の維持機構に関する実証研究の問題点を明確にしていく。そのうえで、選択のプロセスの複数の段階で選択の証拠を得、それらの因果性をできるかぎり裏付けていくという研究アプローチの重要性を述べたい。個体相互作用の引き金となる行動的・生理的基盤からその生態的・進化的帰結を丁寧に結びつけるこのような多角的アプローチは生態学や進化学が扱うあらゆる現象に適用可能な手法であると思われる。

収録刊行物

  • 日本生態学会誌

    日本生態学会誌 64 (3), 167-175, 2014

    一般社団法人 日本生態学会

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