<i>Pieris dubernardi </i>グループの分類学的再検討, ならびに中国四川省北部からの <i>Pieris dubernardi</i> の1 新亜種の記載(鱗翅目, シロチョウ科)

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タイトル別名
  • Taxonomic review of the <i>Pieris dubernardi</i>-group, with description of a new subspecies from Northern Sichuan, China (Lepidoptera, Pieridae)
  • Taxonomic review of the Pieris dubernardi-group, with description of a new subspecies from Northern Sichuan, China (Lepidoptera, Pieridae)

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抄録

<p>Pieris dubernardi (ミヤマスジグロシロチョウ) グループ は, ヒマラヤ・チベット山系の標高3,000-5,000 m の高山 帯に分布する( Fig. 18) 年1 化性のPieris属で, これまでに dubernardi Oberthür, 1884 (Figs 1, 3), chumbiensis (de Nicéville, 1897)( Fig. 4), kozlovi( Alphéraky, 1897)( Figs 5 , 6), gyantsensis Verity, 1911( Figs 8, 9), rothschildi Verity, 1911 (Fig. 10), bromkampi( Bang-Haas, 1938)( Fig. 11), shelpae (Epstein, 1979)( Figs 12, 13), aljinensis( Huang & Murayama, 1992)( Fig. 14), wangi( Huang, 1998)( Fig. 15) 及び pomiensis Yoshino, 1998 (Figs 16, 17) の10 のタクサが記載 されている. これらの蝶はいずれも生息地がアクセスの難 しい山岳地に限られ, 標本数も少なく生態も不詳な上, 近 年の新属の記載や統廃合などの理由から, この130 年間に Pieris, Aporia, Parapieris, Synchloe, Pontia あるいは Sinopieris 属に分類されてきたが, 最近Tadokoro and Wang (2014) により分子系統的に広義のPieris 属に含まれるこ とが確認された. しかし種レベルの分類に関しては依然未 整理の状態にあり, 研究者によって分類はさまざまである. 著者たちは最近いくつかの標本を入手したことから, 本グ ループに属する蝶の種及び亜種レベルの分類をあらためて 見直した. タイプ標本や原記載の写真や細密画, 及び最近入 手したいくつかの蝶の標本をもとに, 翅長・翅形・斑紋・ 発香鱗及び♂交尾器等を比較検討した結果を以下に示す.</p><p>翅長・翅形・斑紋</p><p>グ Review of Pieris dubernardi and its related species group 113 ループにはdubernardi の他, kozlovi, rothschildi, bromkampi, aljinensis 及びpomiensis が含まれ, P. chumbiensis サブグルー プにはchumbiensis に加えてgyantsensis 及びsherpae が含ま れる. この2 つのサブグループの区別点としては, P. chumbiensis サブグループでは♂の場合表面前縁部の第10~12 室が黒鱗に 覆われない点, さらに♀ではそれが5 室まで続く点(Figs 4, 9 & 13( -a)). さらに♂では前翅表面第3室の黒斑が独立していて上 下の第2室や第4室に繋がらない点が挙げられる( Figs 4, 9 & 13( -b)). P. wangiサブグループは亜外縁部の黒帯が表面と裏 面とで大きく異なる点において特異な形質を有している. なお, P. dubernardi サブグループに含まれる6 のタクサでは, 表面の 斑紋が似ているものの, 後翅裏面の黒化程度と生息地によって さらにdubernardi亜種群( dubernardi, rothschildi, pomiensisを 含む)とkozlovi 亜種群( kozlovi, bromkampi, aljinensisを含む) の2 亜種群に分けられる. この内, ssp. rothschildi は近年の採集 記録がまったくない. またdubernardi に関しては, 大型で斑紋 に変異がほとんどない雲南省北西部産の名義タイプ亜種に比 較して四川省北部産の個体群は極めて小型で表面亜外縁部の 黒帯が発達しており, 別亜種であることが示唆される. タクソン 毎の詳細な比較をTable. 1 に示した.</p><p>発香鱗( Fig. 19)</p><p>発香鱗の形状(ラミナの形状や香嚢サイズ)から判断する と, Pieris dubernardi グループはP. napi グループに近縁で あることがうかがえるが, ラミナ頸部がP. napi グループの ものに比較して細長いことから特殊なグループであること が示唆される. グループ内の変異に関しては標本数が充分 でないことから断定はできないが, 限られた情報から敢え て差別化するならば, P. dubernardi サブグループは腕部が 先端で開く傾向があり, P. chumbiensis サブグループは腕部 が先端で閉じる傾向があるように思われる。発香鱗の形状 (特に腕部の形状)からはP. chumbiensis サブグループはP. dubernardi サブグループに比較してP. napi グループにより 近縁ではないかと推察される.</p><p>♂交尾器(Fig. 20)</p><p>♂交尾器もまたP. napi グループに似ているが, バルバ内側 の刺毛が太く濃い. また繊毛部の範囲が各タクサで特徴が あるように思えるが, 検体数が少なく断言はできない. な お, ソキウンクスの形状でP. dubernardi グループを二つの サブグループ(P. dubernardi サブグループとP. chumbiensis サブグループ)に分けることができる。P. dubernardi サブ グループではウンクス先端部が強く折れ曲がり, ソキウス は鋸状だが, P. chumbiensis サブグループではウンクスの先端部の折れ曲がり方もソキウスの形状もP. napi グループ に極めて近似している. 交尾器の大きさではD1 (雲南省北 西部産dubernardi 名義タイプ亜種) が他に比較して大型で ある.</p><p>新亜種記載</p><p>上記の観察結果より四川省北部産の個体群は雲南省北西部 産の名義タイプ亜種とは異なる個体群であることが示唆さ れるため, ここに新亜種として記載する.</p><p>Pieris dubernardi lixianensis Tadokoro, Inomata & Wang ssp. nov(. Fig. 2, D2-1~D2-3)</p><p>タイプ標本: ホロタイプ♂ : Fig. 2, D2-2, パラタイプ♂ : Fig. 2, D2-1, D2-3 すべて四川省北部理県米亜羅( 標高 3,700 m). ホロタイプ標本は中国広州市の華南農業大学昆虫生態 学教室に保管予定.</p><p>開翅長: 48 - 50 mm ♂.</p><p>斑紋( ♂) : 裏面は名義タイプ亜種に近似するが表面の亜 外縁部の黒帯が発達し, 名義タイプ亜種に近いものから♀ の斑紋に近いものまで変異が大きい. 秦嶺山脈を基産地と するssp. rothschildi( Fig. 10)とは, 後翅表面第5 室及び第3 室の黒斑の有無により区別できる</p><p>発香鱗: ラミナが短い.( 名義タイプ亜種に比較し, 15-20% 程度短い)</p><p>♂交尾器: 名義タイプ亜種に近似するが小型.</p><p>♀標本は未確認.</p><p>亜種名: lixianensis の語源は生息地である中国四川省理県 (Li-xian).</p><p>備考: 四川省南部産の個体群はssp. dubernardi もしくは ssp. lixianensis のいずれかに属すると考えられるがさらな る検証が必要. ただし, 当該報文においては歴史的な分類に 従い暫定的にssp. dubernardi に分類する.</p>

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 67 (3-4), 99-114, 2016

    日本鱗翅学会

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