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変形性膝関節症患者の膝関節周囲筋力は歩行速度の低下に影響を及ぼすか?
Description
【はじめに、目的】 変形性膝関節症(膝OA)の保存的治療は,発症の段階から進行予防や症状悪化に配慮したうえで,長期的な展望を考慮する必要がある。そのためには,患者の動作能力の向上を目的とした適切な理学療法を模索し,実践する必要がある。我々は先行研究において,膝OA患者における歩行速度の関連因子と半年後の歩行速度の予測因子を検討した。その結果,膝伸展筋力と膝屈曲筋力は関連因子としても予測因子としても,薬物療法等の医学的処置の影響からは独立して,歩行速度を有意に説明した。特に膝屈曲筋力は,半年後の歩行速度を高い精度で予測でき,良好な診断特性を有する検査であった。しかしながら,この予測因子の知見は半年後の歩行速度をアウトカムとしたため,一時点における歩行速度の状態は予測できるが,将来の歩行速度の経時的変化を予測できるかについては不明であった。本研究では膝OA患者の身体機能を縦断的に分析し,1年後の5m最大歩行速度(5mMWS)の低下を予測する因子について検討することを目的とした。【方法】 研究デザインは前向きコホート研究で,保存的治療を実施している膝OA患者に対し,ベースライン調査として説明変数と交絡因子の計測を行った。さらに,追跡調査としてベースライン調査の半年後(日数211.6 ± 31.1日)と1年後(日数372.8 ± 39.8日)の時点での目的変数の計測を行った。対象はM病院整形外科で膝OAと診断され,保存的治療を実施している外来患者のうち,下記の取り込み基準を満たし協力が得られた41名(男性10名,女性31名,年齢74.2±7.5歳)であった。取り込み基準は,15m以上の屋内独歩が可能な者とした。なお,本研究の対象者はすべて内側型膝OA患者であった。歩行速度の予測因子として,基本属性である性別・年齢・身長・体重の4項目,医学的属性である障害側・非ステロイド抗炎症薬使用の有無・関節内注射の有無・関節穿刺排液の有無の4項目,身体機能である膝伸展筋力・膝屈曲筋力・大腿四頭筋に対するハムストリングの筋力比(H/Q比)・疼痛の程度(VAS)・膝関節伸展角度・膝関節屈曲角度の計測および調査を行った。統計学的処理は,「1年後の5mMWS-半年後の5mMWS」の変化量を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。目的変数を2値化するために,本研究対象者の歩行速度の測定標準誤差(SEM)=2.55から歩行速度の変化量の最小検知変化(MDC)=7.07を算出した。そして,目的変数が-7.07m/分未満の者を低下群(n=11):「1」とし,-7.07m/分以上の者を維持・向上群(n=30):「0」として2値化した。さらに,基本属性と医学的属性の8項目を交絡因子,身体機能の6項目を説明変数として扱った。統計解析にはSPSS Statistics 19を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施し,対象者には書面および口頭にて本研究の説明し同意を得た。【結果】 変数増加法(尤度比)によるロジスティック回帰分析の結果,有意に推定に寄与する変数は認められなかった(モデルχ2検定p=0.84)。すなわち,ベースラインにおける膝関節周囲筋力を含めた身体機能は,1年後の歩行速度の低下を判別することはできなかった。【考察】 我々の先行研究では,膝伸展筋力と膝屈曲筋力は半年後の歩行速度を予測する因子として有意な変数であった。しかしながら,本研究の結果より,1年後の歩行速度の低下を予測する因子ではないことが示唆された。すなわち,ベースラインにおいて膝関節の筋力値が低い者は半年後の歩行速度も遅いが,その後さらに歩行速度が経時的に低下するわけではないことが明らかになった。これらを統合解釈すると,膝OAの結果として膝関節周囲筋力は低下し,歩行速度も遅延することが考えられる。しかし,1年間という短期間で,かつ保存的治療を受けているにもかかわらず歩行速度が経時的に低下していくメカニズムは,今回計測した身体機能が単独でその原因になるわけではなく,その他の身体機能の異常と関連しながら重症化する可能性が推察される。【理学療法学研究としての意義】 1年間という短期間で,かつ保存的治療を受けている膝OA患者の歩行速度の低下には,膝関節の機能障害以外の要因がかかわっている可能性が示唆された。本研究結果は,従来実践されてきた罹患関節を重視する理学療法の視点から,近年実践されている多関節運動連鎖の視点を踏まえた理学療法を展開するための臨床研究として,その一助となることが期待できる。また,本研究の学問的意義として,ネガティブデータの公表によるパブリケーションバイアスの抑制に寄与することが考えられる。
Journal
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- Congress of the Japanese Physical Therapy Association
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Congress of the Japanese Physical Therapy Association 2011 (0), Ca0223-Ca0223, 2012
Japanese Physical Therapy Association(Renamed Japanese Society of Physical Therapy)
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205572229504
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- NII Article ID
- 130004692897
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
- Disallowed