脳血管障害片麻痺歩行の麻痺側立脚期における短下肢装具背屈制動の効果

Bibliographic Information

Other Title
  • シングルケースデザインによる検討

Search this article

Description

【はじめに、目的】従来、背屈制動の役割として立脚中期の足関節底屈筋の活動を補助し、膝折れを防ぐことが知られている。近年、新しい短下肢装具(以下、AFO)が開発されたことにより、装具の選択肢が拡大していることで、個々の症例に合わせた装具選択の必要性は増している。その中でも足関節の関節角度と底背屈の制動力は歩行の安定性に寄与することから重要な検討課題であると考える。しかしながら、底屈制動機構の報告は多数みられるが背屈制動の報告は散見する程度である。また定量的に測定した報告は少ない。 本研究の目的は、制動力の調節可能なMR(Magneto Rheological Fluid)流体を用いた足継手を組み込んだ金属支柱付AFO(以下、MR-AFO)を使用し、距離時間変数の変化量から麻痺側立脚期における背屈制動の効果をシングルケースデザインの手法を用い検討することである。また、表面筋電図(以下、EMG)を用い筋活動変化からも検討した。【方法】対象は発症から6ヶ月以上経過し、歩行が自立している脳血管障害片麻痺者3例。下肢Brunnstrom recovery stage、膝関節伸展自動運動・足関節底屈自動運動の可否、腱反射、足関節背屈角度、下肢筋のModified Ashworth Scaleを評価した。3例全てにおいて、膝関節伸展自動運動は認めるものの完全伸展は困難であった。足関節底屈運動も困難であった。また、麻痺側立脚期に膝の不安定性(膝関節屈曲位)を認めた。 実験デザインはABABによるシングルケースデザインである。操作導入は対象者が使用しているAFOとMR-AFOによる足関節への背屈制動とした。測定項目は最大歩行速度、ケーデンス、1歩行周期時間、ストライド長の距離時間変数とした。対象者には、それぞれのAFOを装着し十分歩行練習をした後に測定を行った。各期の間に十分な休憩を入れた。距離時間変数は標準偏差帯法(2standard-deviation band method)を用いて分析した。2連続以上のデータポイントが基礎水準期の平均値±2SDの値より大きいもしくは小さい場合は、統計学的な有意差があると判断した。 操作介入期の筋活動パターン変化を確認するため、EMGを使用した。被験筋は大殿筋、大腿直筋、内側広筋、内側ハムスト、内側腓腹筋(AFOにより下腿後面が覆われている場合は未測定)とした。また、装具装着側からデジタルビデオカメラで撮影し、歩容を確認した。【倫理的配慮、説明と同意】対象者に対しては文書と口頭にて説明を行い書面にて同意を得た。本研究は倫理委員会にて承認を受けた研究である。【結果】症例1、2は操作導入期において距離時間変数が改善した。EMGは症例1の大腿直筋、内側ハムスト、内側腓腹筋は操作導入期の立脚後期に活動が減少した。症例2の大腿直筋、内側広筋、内側ハムストは操作導入期の立脚初期に筋活動の増加を認めた。症例3は距離時間変数に著明な変化を認めなかった。【考察】小山ら(2006)、高木ら(2007)は筋トーヌスが低下している片麻痺者や麻痺側立脚期に膝折れする片麻痺者に背屈制動を付加したAFOを使用し背屈制動の必要性および歩容の変化を報告している。本研究の結果からも、それらの報告を示唆するものとなった。立脚初期から中期にかけての背屈制動が足関節底屈筋や膝関節伸展筋を補助し、麻痺側下肢の支持機構の向上、身体の前方移動改善および距離時間変数の改善に影響したと推察される。また、立脚中期以降に身体の前方移動が可能な場合、背屈制動の必要性は少ないと考える。しかし、麻痺側下肢の筋緊張が低下している場合や立脚初期から中期に膝屈曲モーメントの増加する時期、膝折れ感から歩行能力が低下している場合、背屈制動の小さい装具や制動機能をもたない装具ではなく適切な背屈制動を付加することが有効と考える。また、足関節軸を合わせ背屈制動力と発揮するタイミングを適切に調整した装具であれば、身体の前方回転が可能な片麻痺者でも歩行能力を改善させる可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は対象者数が少ないことから、この結果を全ての片麻痺者に一般化することは困難であるが、対象者の機能障害および歩行能力を評価し詳細な症例報告を積み重ねることで、個々の症例に適した装具を選択する際の一助になると考える。

Journal

Details 詳細情報について

Report a problem

Back to top