多種類の都市施設に対するアクセシビリティの計測と各種社会経済変数との関係の分析

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書誌事項

タイトル別名
  • Measuring spatial accessibility to various types of facilities and analyzing the relationship between the accessibility and sociodemographic variables
  • the case study of Nagoya-shi, Japan
  • 名古屋市を対象としたケーススタディ

抄録

<p>私たちは、様々な都市施設を訪れ、それらを利用して日常生活を過ごしている。例えば、買い物のために各種小売店を利用し、怪我や病気などの際には専門診療科の医療機関を受診し、気晴らしや運動のために公園を訪れ、外食のために飲食店に赴いたりしている。これら都市施設は私たちの生活にとって必要不可欠であったり、潤いをもたらしたりするものであるから、それら施設へのアクセシビリティ(近づきやすさ)を何らかの指標によって計測したり、各種社会経済変数との関係を分析したりすることには、大いに意味があるだろう。 地理学をはじめとするさまざまな学術分野において、都市施設に対するアクセシビリティに関して、その計測および社会経済変数との関係を探る実証研究が数多く行われてきた。ただし、それら研究のほとんどは、特定の診療科の医療機関などの単一の種類の都市施設、もしくは、ごく少数の種類の都市施設を対象としている。私たちは日々さまざまな都市施設を利用していることを考えると、多種類の施設を網羅的に扱い、それらに対するアクセシビリティを分析する研究を行うことが望まれるだろう。しかし、複数の種類の都市施設へのアクセシビリティを扱った研究は決して多くなく、それらの研究であっても、十分に多くの種類を扱っているとは言い難い。 その理由としては、多様な種類の施設に関するデータを入手・準備するハードルが高かったということが考えられる。例えば、「国土数値情報ダウンロードサイト」などのサイトでは、かなり多くの種類の都市施設に関するオープンな空間データが提供されている。ただし、それらサイトでは空間データが提供されない種類の都市施設も少なくない。オープンな空間データが存在しない種類の都市施設については、有償の空間データを利用することが考えられる。ところが、そのようなデータは往々にして高額であり、気軽に用いうるとは言い難い。このように、多くの種類の都市施設に関するデータを、既存のもので準備するとなると、金銭的コスト面などのハードルが生じる。 一方、現在では、さまざまな種類の都市施設の住所をネット上で調べることができ、また、ジオコーディングによって住所情報をもとに空間データを作成することもできる。したがって、金銭的コストを大幅に費やすことなく、多種類の都市施設に関する空間データを準備・作成でき、そして、それら施設へのアクセシビリティを扱う実証研究も実施可能と考えられる。このとき、都市施設に関する住所情報は、ウェブスクレイピング(Webサイトからの情報の自動収集)によって自動的・効率的に収集することができると考えられる。 この研究では、特にウェブスクレイピングを活用して、多種類の都市施設に関するデータを準備し、愛知県名古屋市内におけるそれら施設へのアクセシビリティを分析したケーススタディを示す。第一に、オープンソースプログラミング言語Pythonによるウェブスクレイピングおよび「国土数値情報ダウンロードサイト」の利用によって、38種類の都市施設のデータを入手・準備する。第二に、それぞれの種類の施設へのアクセシビリティを測る指標を、名古屋市内に規則的に配される地点に対して算出する。より具体的には、OpenStreetMapから入手できる道路ネットワークデータを利用し、道路距離で1km以内にある施設数を(各種類について)算出する。第三に、個々の種類の施設について算出されたアクセシビリティ指標値に対する統計分析から、複合的なアクセシビリティを定量的に把握することを試みる。この研究では、因子分析によって、「賑やかさ」、「住みやすさ」と解釈できる複合的アクセシビリティ指標を算出し、それらの値が興味深い空間分布パターンを呈することを示す。最後に、先に算出した複合的アクセシビリティ指標といくつかの社会経済変数との関係を統計的に分析する。具体的には、「賑やかさ」と「住みやすさ」のそれぞれと、(「政府統計の総合窓口」から得られるデータを基にメッシュ単位で値を算出した)ホワイトカラー比率、高齢化率、正規雇用率、高齢化率、人口密度などとの関係を空間回帰モデルによって分析し、いくつかの興味深い結果を示す。一例として、特に経済的な意味で不利な立場に置かれるほど、身近にあることが望ましい種類の都市施設に対するアクセシビリティに欠け、その意味で住みやすさが損なわれている、と解釈できる結果などを示す。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390016128781648128
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_111
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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