オーストリア・チロル地方の山間地における建物タイプからみた集落景観の地域特性

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タイトル別名
  • Areal Pattern of Rural Landscape of the Small Town in Mountainous Areas of Tyrol, Austria
  • マイヤーホーフェンの事例
  • A Case of Mayrhofen

抄録

I.はじめに<br>   人口流入に伴う農村の質的変化であるルーラル・ジェントリフィケーションのみられる地域では,建物の更新と機能改善が進むが,そうした中で建物の形状的な側面としての集落景観が徐々に変化する。建物の形状的な側面に関しては,伝統的建築物の残存と保存へ向けた諸条件に関する研究(河本,2003)などがみられるが,山間地における集落景観の変化に関する検討は充分とは言い難い。<br>   本研究は,オーストリア・チロル地方の山間地に位置し,小規模な基礎自治体の中心集落であるマイヤーホーフェンを事例に,集落景観の地域特性を,建物の外観に基づいて識別した類型(以下,建物タイプ)から明らかにし,地域特性の形成の背景を議論することを目的とする。<br>   分析では,現地での建物利用調査に基づいて,建物の外観に共通する特徴に着目して建物タイプを設定し,その空間的配置から集落景観の特徴を明らかにする。2015年8月の現地調査では,2011年時点での同一行政域内で確認された全建物1,016件(役場資料に基づく)の63.4%にあたる,全644件の建物に関する情報を収集した。また,建築統計に基づいて地域特性の形成の背景を議論する。<br><br>II.建物形状に基づく建物タイプ<br>   事例地区では多くの建物の外観に共通する特徴として「切妻」「ベランダ」「木製壁」が確認され,その有無に基づいて,典型的な組み合わせから建物タイプを設定した。建物タイプは,伝統的な外観を有する代表的類型の「タイプ1」,派生型である「タイプ2」,一定の伝統性を保持しつつ,特定の利用形態に特化する「タイプ3」,建築コスト低減や特定用途が指向される「タイプ4」,多様な建築類型を含む「タイプ5」に分類できる。「タイプ1」が最大グループであり,次いで「タイプ5」が全体の5分の1を占め,さらに代表類型と類似する「タイプ2」と続くが,「タイプ3」「タイプ4」は少数にとどまる。建物の階数では,4階までの建物が全体の9割を占めており,集落全体として統一のとれたスカイラインとなっている。<br><br>III.建物タイプの空間的な分布からみた集落景観<br>   建物タイプの地域的な特徴を検討するため,集落の社会的中心地である役場の建物,および経済的基盤となる観光業の中心地の一つであるロープウェイの駅をそれぞれ起点とした半径500メートルのバッファ(同心円の範囲)を設定した。これらを用いて中心集落を,行政施設の集まる北部中心の「A域」,商業・金融機関の集まる南部中心の「B域」,レジャー施設の立地する「C域」,さらに周辺部となる「他区域」に区分した。<br>   これらから空間的な分布をみると,代表的類型である「タイプ1」は集落内全体に分散的に分布するが,ツーリズム活動の中心の「C域」や周辺部「他区域」において割合が高い。「タイプ1」に該当する宿泊施設は多く,当地において「タイプ1」は宿泊施設として積極的に採用されている。一方,北部中心である「A域」や南部中心の「B域」では他の類型の割合が若干高くなっている。とくに多様な建物形状を含む「タイプ5」は,商業やレジャーの集まる「A域」から「C域」までのメインストリート沿いに集中しており,建物の有効活用が求められる狭小な敷地や,周辺部での宿泊施設などにおいて選択される傾向にある。<br><br>IV.地域特性の形成の背景<br>   建築統計に基づくと,宿泊施設が増加している。既述の通り宿泊施設では伝統的な建物類型が選択される傾向にあり,これらが増加することで,当地において「チロルらしさ」のイメージが維持・強化されている。建物統計によると,ホテルの件数は2001年に178件であったが,2011年には206件と10年間で15.7%増加している。現地調査を通じて,これらの新しい建物では施設などの機能の近代化や大規模化を確認でき,建物の外観は伝統的な様式であるものの大規模かつ近代的な宿泊施設が当地で増加している。<br>   一方,住宅においても新築や改築を通して建物の近代化と改善が進展しており,既存建築物でも屋根,窓,集中暖房,外壁の改修が行われ,外見上や機能的な改善が図られている。また,住宅の大規模化と建物の集合住宅(多世帯)化が進展し,集合住宅を含めた大規模な建物が増加傾向にある。こうした建物の近代化は,伝統的な建物類型以外の建築様式の増加の背景となっている。<br><br>文献<br>河本大地 2003.岩手県遠野市における南部曲家の現状 : その残存と継承に着目して.地理科学 58(1): 46-59.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680671422208
  • NII論文ID
    130007017497
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100160
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
    • KAKEN
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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