YKKファスニング事業の変遷について : 製造業における国際化と現地化の視点から

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  • Changing process of fastener business YKK
  • YKK ファスニング ジギョウ ノ ヘンセン ニ ツイテ : セイゾウギョウ ニ オケル コクサイカ ト ゲンチカ ノ シテン カラ

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抄録

一般的にイノベーションは先進国で起こり、先進国で市場を築いた製品は、その後、新興国にも普及していくと考えられている。新興国側では、技術のスピル・オーバーなどにより、安価な労働力を梃にやがて先進国に製品を輸出する立場となっていき、先進企業の競争優位性を脅かしたり、先進国の空洞化を進めたりするといわれる。実際、戦後間もないころ、技術力も低く、新興国であった日本の製造業はいつの間にか先進国であった米国などの技術をキャッチアップし、欧米先進諸国に輸出する立場になっていった。そして、自らも先進国の仲間入りを果たした今日、逆に新たな新興国である中国やアジア諸国に市場での競争力を奪われ、また生産拠点の移転によって産業空洞化の問題を抱えている。YKKはだがそうした状況下の日本の製造業の中で、戦後大きな成長を遂げ現在も依然として高い世界シェアを維持している優良企業の代表例である。スライドファスナーの分野においてYKKは現在でも国内で9割、世界で4割以上のシェアを誇っている。本研究では、そうした現在に至るまでのYKKファスニング事業の成長と競争優位性の維持がなぜ可能であったのかを、事業規模の変遷や成長過程などを調査しその要因について分析を行った。分析の結果、戦後、政治的な要因から国内市場開拓に注力せざるを得なかったYKKにおいて、当時の日本の顧客特有の製品ニーズに適合する技術開発と製品開発が行われ、これにより逆にのちの世界シェア獲得への基礎となる一種のイノベーションが誘発されたことがわかった。産業の現場で起こっているこうしたイノベーション創発の過程に関する分析と意味付けは、現在閉塞状態にある日本の多くの製造業企業の活性化に資する大きな示唆を与えている。

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