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- 村上 英也
- 國税廳釀造試驗所
書誌事項
- タイトル別名
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- ミソ ノ ジョウゾウ ト コウジキン
- 麹の色香、麹汁の色香、麹の苦味、味噌の色香
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説明
味噌の醸造に於て麹の果す役割は多く、之に關し菌株、製麹條件の比較試験の成績は多く擧げられているが、多数の各種の麹菌を用い、之を選擇し、製麹仕込製品に至るまでの一貫した研究成績は少いように思われるのでこの試験を試みた。特に菌株の選擇に於ては複雑な試験によらずに當業者が簡単な方法で容易に菌の良否乃至特長を見分けるような方法は無いものかとの見地に立つて、麹の色香、麹浸出液の色香と味噌の色香との關係を調べ、更に之が菌株による相違を明らかにし、又製麹條件については特に種々の條件は與えなかつたが製麹時間について菌株の相違より來る異る成績により類推考察をした。筒又この試験は味噌麹菌についてのみ比較したものではなくあらゆる種類の麹菌を用いて行つたものであるから若し味噌麹菌のみについて比較し、更にその菌の形態、成長的特長、酵素的性質乃至は生理生産物等についても研究したならば更にはつぎりした興昧ある結果の得られる事と思われる。之については後日に譲るが、今同試験の結果を見ると別段に新しい事も少く、從來の諸試験の成績とよく一致するが、特に注意を新にする意味で之をまとめると次の通りである。<BR>(1) 味噌の色に雑色がかかつても濃厚な色を望む場合は出麹は出來るだけ着色を進めた方が良いが、單色で鮮明美麗な特有の色を望む場合はこのような麹菌を選擇する事が先決で、かかる菌の性質として麹の色は淡くても浸出液の色は比較的濃いのが特長である。之と反野に味噌の色の淡い事を望む時は麹に着色を多くしてはならない。<BR>(2) 味曝の香氣の良いものを得るには麹の香氣はむしろ老ね氣味の方が良く、若々しい芳香又は異臭のあるものは良くない。出麹の色と麹の眞の老若とはしばしば併行しない事があるから色よりも麹の香氣によつて老若を判斷する事が大切である。從つて色淡く香氣の良い昧噛を得るのには麹の色は淡く而も香氣は老ね易い菌株を選び、又味哩に特有の鮮麗な色と良い香氣とを求める場合は何よりも菌株の選擇が大切であるが、概ね麹の色は淡くても、浸出液の色の比較的濃い菌株を選び、而も老ねさせて用いる事とし、反野に麹の色は濃いが浸出液の色の淡いものを選んではならない。<BR>(3) 麹の浸出液の色は濃いと味噌の色も濃いが、反例として液は淡いが味噌の濃いものあり、かかるものは醤油麹菌に多いが眞に老熟しているため味噌麹菌でかかる種類のものを用いると單色で鮮麗な色の味噌が得られ香氣も佳良であるから、味噌麹菌のみについて浸出液の色を比較するとぎはむしろかかる反例の菌が良い事が多い。<BR>(4) 麹の冷湿浸出と高温浸出とでは色調の濃淡は大體併行して明らかに異り、高温浸出が濃く、一般に温醸によつて味噌の着色の進む事は多く経験する所であるが、その差の特に甚しく冷温では殆ど無色でも高温で飛躍的に着色の進むものあり、かかるものは着色を求めない味噌の場合特に温醸をする事は出來ない。<BR>(5) 黄麹菌以外の褐色、白色、澄色等の種々の麹菌は味噌醸造用としての贋値が少い。この中使用した白麹菌は味噌の色も白つぼく白味噌に適するように思われるが糖化力が甚しく弱くために香氣はむしろ醤油に類して不良であつた。褐色麹菌中二種は普通の成績を示したが他はむしろ醤油に適し、且雑味を伴つて良くない。橙色麹菌は全く糖化力弱く、味噌は仕込後殆ど變化せずアンモニア臭が強く不良である。要するにかかる麹菌は單一菌で味噌醸造に使用する事は殆ど不可能である。<BR>(6) 麹の苦味は主として菌個有の苦味であり、味噌に苦味の現われる事は少いぶ全體的に味噌の品質を向上させるものではない。<BR>(7) 味噌の品質として香氣色澤共に優れた菌株は多籔の麹菌の一般的性質の比較に於てしばく例外的特長も示すという事は味噌麹菌が他のいろくの麹菌と比較して特異の性質を持つていることを暗示するものである。<BR>以上主として麹菌種の比較を中心として味噌の色香の關係を考察したのであるが、勿論味噌の色や香りは單に麹欝のみの作用によるものではなく、又同じく味噌麹菌でも旨昧成分の現出に種々の程度があり、醤油麹菌に比較して之が弱いために、蜜際の昧噌の醸造にはかかる菌種の混用も行われている状態であつて、熱成中の攣化は單一麹菌使用の場合と異るであろうし、又仕込後三カ月以上も経過すれば細菌酵母の諸作用が加わつていよく複雑となり、その他原料の種類、性質、その處理、仕込後の経過温度や期間、重石の有無大小、切返しの方法、頻度等の條件が累積して、多種多様の品質の味噌が醸成される事になるのであるが、この試験に顧みて、ある特定の品質の味噌を造るに際しては如何にそれに野應する諸條件を適切に與えようとも使用する麹菌の選擇に鉄ける所があれば、その折角の苦心園徒勢に終るおそれの多かろう事とかかる目的のためにあらゆる見地から綜合した適切な努力が續けられるならば
収録刊行物
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- 日本釀造協會雜誌
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日本釀造協會雜誌 46 (10), 377-383, 1951
公益財団法人 日本醸造協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282681052035072
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- NII論文ID
- 130004320920
- 40018325267
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- NII書誌ID
- AN00192226
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- ISSN
- 21864004
- 0369416X
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- NDL書誌ID
- 10051414
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- NDLサーチ
- Crossref
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可