中等地理教育における地域の見方・考え方の位置づけと展望

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タイトル別名
  • Position and Prospects for Regional Perspective in Secondary Geography Education
  • Toward a Study of K-12 Geography Education Curriculum
  • 「小中高一貫地理教育カリキュラム研究」に向けて

抄録

<p>1.はじめに</p><p>地域は,地理学,地理教育ともにアイデンティティとなる概念の一つである.Johnston(1990)は,地域的な見方は,資本主義世界経済のもとで直面するあらゆる危機を回避することに貢献できれば,その価値は地理学の専門的な内容よりも教育において証明できると示唆している.よって,地理教育では,地理学,とりわけ地誌学がこれまでに構築してきた地域に関する理論を還元することが肝要であるが,地理教育における地域の見方・考え方の位置づけは,その理論の複雑さゆえに容易ではない.これまでに,地域と同様に複雑な地理的概念であるスケール概念について,木場・吉田(2021)では,中等地理教育の一貫性に鑑みながら,発達段階に応じた概念援用の必要性を,授業実践例を踏まえながら提言した.</p><p>そこで,本研究の目的は,これまでの英語圏地誌学における理論の動向を整理した上で,中等地理教育で地域の見方・考え方をどのように位置づけるのかを設計することにある.具体的には,中学校社会科地理的分野,高校必修科目「地理総合」,高校選択科目「地理探究」の3つの段階に求められる地域の見方・考え方を,授業実践の枠組みを踏まえて示す.さらには,中等地理教育の一貫性,ひいては「小中高一貫地理教育カリキュラム研究」に向けて,近未来社会を見据えて展望を論じる.</p><p>2.英語圏地誌学における理論の動向</p><p>英語圏地誌学の動向は,Jones(2022)によって整理がなされている.具体的には,①19世紀頃の,地域を固定化して記述的に説明する「伝統的な地誌学 traditional regional geography」,②1980年代に台頭した,社会的プロセスを重視し,地域を動態的に捉える「新しい地誌学 new regional geography」,③今後の地誌学研究への示唆として,ネットワークや関係性などに着目して地域形成を捉える「新たな新しい地誌学 new new regional geography」の3つの段階である.</p><p>さらにJonesは,③において,フランスの哲学者であるマラブーによる「可塑性」の概念に触れながら,地誌学の方向性を言及している.マラブー(2005,2020)の概念をもとに地域を捉えると,例えば,可塑性は能動的であり受動的でもある.つまり,地域は人の存在やアイデンティティを示すものであり,人の日常的実践を形成するものでもあると考えることができる.また,自然災害やパンデミックなどの偶発事は,地域の創造と破壊の二面性をもつ(破壊的可塑性).</p><p>3.中等地理教育における地域の見方・考え方の位置づけ</p><p>英語圏地誌学での理論的動向を参考に,中等地理教育における地域の見方・考え方の位置づけを以下のように試案した.①中学校,高等学校ともに,探究的な学びを通じて,地域を総合的に考察することは共通する.②地域形成に対して考察する力を涵養するために,中学校社会科地理的分野から「地理総合」,さらには「地理探究」にかけて,地域形成の要素を固定化して考察するところから,モザイク化した地域形成のようすを紐解いていく考察へと,段階を踏んで目標を設定する.③「地理総合」では,普遍的価値観で地域性について考察できることを目指す.④「地理総合」や「地理探究」では,発展的な学習として,地域の形成過程とともに,地域でみられる偶発事やイシューに対して,レジリエンスなどの観点から,地域の将来を見通すための思考,判断ができることを目指す.なお,当日の発表では,実際の授業実践の概要を示しながら説明する.</p><p>4.中等地理教育における地域の見方・考え方の展望</p><p>Paasi(1991)によると,地誌学研究者は家族内のプライベートな社会関係,空間的アイデンティティにおけるパーソナルな経験など,人間生活のスケールに注意を払うべきだと指摘する.地理教育では,学習者が「自己の日常的実践や価値観」というプリズムを通して,地域に介在するイシューを考察することで,学習者の生き方に還元できるような授業実践が求められる。言い換えれば,学習者が社会形成の担い手となる「ジオグラファー」の育成,そして学習者のwell-beingにつながるための地理教育カリキュラムの創造が必要である.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390295669572598528
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_171
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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