宝蔵文書と地籍図にみる十津川山村:大字武蔵を中心に

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  • Formation & development of mountain villages in Totsukawa Region: analysis of Musashi community's historical documents and Totsukawa cadastral maps

抄録

<p>1.研究目的</p><p> 十津川村は、先進的林業地帯の周辺部に位置する山村である。十津川村の大字武蔵の宝蔵文書と地籍図をおもな資料とし、江戸時代後期から昭和期に至る地域形成の展開をたどり、村落特性を明らかにすることを目的とする。</p><p>2.武蔵宝蔵文書による検討</p><p>(1)資料の概要</p><p> 十津川村には、大字(旧藩政村)が管理する「宝蔵」(ほうぞう)と、十津川郷が管理する「宝蔵」がある。大字の「宝蔵」には検地帳、五人組帳、年貢皆済目録などの村政書類、売買証文・収支帳などの経済書類、祭祀その他に関わる書類や有形物、明治期以後の大字共有財産に関する書類、大字全体に関わる事業その他の書類などが保管されている。武蔵集落では宝蔵文書を土用の丑に虫干しする。当日に撮影・複写させていただいた書類を小論の資料に用いる。</p><p>(2)武蔵の地域史とその画期</p><p> 延宝年間から元禄年間にかけての山論は、検地・村切りにより複数村の用益林野が特定の村の領域に確定する過程で発生した。この時期に日本各地で多発した山論の一例である。</p><p> 元禄4(1691)年から約80年間、数度にわたって、町人請負銅山開掘願に対して郷を挙げて反対し、阻止した。</p><p> 山林売買契約(立木年季売買)は1700年頃が初出で、1740年代以降増加する。樹種を限定した数年間の年季売買が多く、杉檜立木一代売買が一般的な吉野林業中心部と異なり、育成林業への特化が低い。筏流・樽丸生産など育林材において成り立つ産業が確認できる一方で、椎茸木・雑木・炭山など雑木林を対象にした多様な年季売買が19世紀前半に数多く行われ、20世紀初頭にも確認できる。このように育成林業以外の林野経済活動が長く営まれていた。</p><p> 茶葉入札、種牛購入、養蚕(乾繭場の建設)など農業での共同体管理の事業や湯泉地温泉の経営など、林業以外の経済活動についても武蔵部落は営んでいた。</p><p> 雑木林を対象とした伐採跡地への植林が19世紀末の宝蔵文書、原木搬出のための木馬道造成が20世紀初頭の宝蔵文書で確認できる。杉檜造林地の拡大や林道整備は育成林業に沿った集落整備であり、明治後期から一層活発に行われるようになった。  3.十津川村の地籍図にみる領域の管理と林野の機能区分 (1)地籍図が示す集落の特色</p><p> 十津川村は55大字から成る。地籍図は、大字ごとに土地台帳と対にして調製された。法務局(十津川・五条支所)と十津川村役場で閲覧複写した地籍図を用いる。藩政村・大字の土地所有・管理用益の仕組みや土地利用内容(地目)の配置・空間秩序を比較検討する。</p><p> 十津川村の多くの大字(藩政村)は、数個の集落群(小字群)から成る。しかし、個々の集落群(小字群)は共同体の実体を分有しておらず、大字が一元的に有している点で、標準型の村落とみなす。</p><p> 各大字の集落群(小字群)は大字領域内各地に分布していた。宅地は畑と隣接し、荒地の地筆群と少数の宅地が結合している場合もある。近代期以後、長い時間の中で、少数の集落へと宅地が収斂し、居屋敷の凝集が進行した。</p><p>(2)林野の機能区分:林野の管理・利用内容の空間秩序</p><p> 大字の林野は、個別の私有林野、記名共有林野、1村有の部落有林野、複数村有の部落有林野から成り、原則国有林はない。共同体は林野を里山と奥山に区分し、主に奥山(部落有林野)の小字ごとの利用内容(切畑・荒地、採草地、薪山、育林山、炭山、椎茸木山、松山など)と利用方法(利用の期間、ムラ直営か地上権貸与かなど)を話し合い、規則を設けて領域を管理し、用益してきた。</p><p> 売却による林野の縮小・断片化、集約的排他的利用による硬直化などの困難に直面しつつ、共同体管理を継承してきた。十津川村の大字間でのヴァリエーションと契機についても整理したい。 4.十津川山村の地域史と武蔵の位置づけ</p><p> 明治22(1889)年水害がもたらした地形・土地利用の変化、北海道への開拓離村により、十津川村の人口増加は一時的に止まったが、大正・昭和前期まで人口は増加し、一時的転入者を除き、1960年頃まで12000~13000人台を維持した。近代以降の山村の人口増減には4タイプあり、その1タイプをなす。江戸時代から昭和前期までの十津川山村の地域史は、多様で複合的な農林生産活動と育成林業山村としての集落整備・地域形成と総括できる。その特色を、大字武蔵に則して具体的に提示する。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390297603758363264
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_102
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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