災害地理学の発展をめざして
書誌事項
- タイトル別名
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- Purpose of the symposium “Achievements of AJG's disaster responses over the last quarter century and future prospects for developing Disaster Geography”
- -日本地理学会の災害対応開始から四半世紀の歩みと今後の展望-(シンポジウムの趣旨)
説明
<p>シンポジウムの趣旨:日本地理学会は2001年に災害対応委員会を立ち上げ、四半世紀が経過する。この間、東日本大震災など多くの災害に学会として対応し、ハザードマップや地形分類図の普及、地理教育における防災教育について、地理学的視点から検討してきた。日本社会の持続可能性が改めて問われ、地理学にも貢献が求められている今日、これまでの取り組みを振り返ると共に災害地理学の発展をめざした今後の展望について議論したい。この間、地震・洪水・斜面崩壊等、様々な大災害が発生した。2024年元日には令和6年能登半島地震が起き、その直後から災害対応を開始した。本学会の災害対応のあり方は今後も検討され続ける必要がある。また、災害地理学としての学理の追究や、防災教育への反映も期待される。本シンポはそのあり方を展望する。</p><p></p><p>災害対応委員会の立ち上げ:1995年阪神淡路大震災をきっかけに本学会の災害対応のあり方が議論され、社団法人化に伴う公益活動の強化の必要性もあって、90年代後半の常任委員会(委員長:米倉伸之)や企画専門委員会(委員長:戸所 隆)が災害対応の方針を示した。その結果、2001年3月に災害対応委員会(初代委員長:遠藤邦彦)が発足した。その後、災害対応委員会は、災害対応のあり方を再確認するとともに、具体的実施内容を協議した。その結果、50名以上の会員からなる災害対応グループを2002年7月に立ち上げ、MLによる情報交換をスタートさせた。また、組織的な災害調査が可能になるよう、全国10の地域拠点を設け、「日本地理学会災害調査」と明記した腕章とシールを貸与した。2002年11月に学会ホームページ内に「災害対応ページ」を立ち上げ、災害時には現地情報や学会員の見解を掲載した。2003年春には「ハザードマップと地理学-なぜ今ハザードマップか?-」、2004年春には「地震被害軽減に役立つハザードマップのあり方」を開催し、ハザードマップを重視する姿勢を明確にした。2004年には「ハザードマップを活用した地震被害軽減の推進に関する提言」を発出し、関係省庁へ送付した。また2003年には日本地理学会のグランドビジョンに「災害対応を通じて社会連携する地理学」が明示された。</p><p></p><p>災害対応委員会の活動:その後も本委員会は、毎年のように起きる自然災害に対する会員からの情報を収集し、発信に努めた。また学術大会において継続的にシンポジウムを開催した。その回数は、2024年3月までにシンポジウム(緊急シンポジウムを含む)32、特別セッション2、緊急報告会1である。内容は、大災害、ハザードマップ、復興、地球環境変動、災害の地域性、国土・地域計画、災害基礎情報など多岐にわたった。また2010年以降は地理教育や災害地理学について議論した。2003年九州豪雨災害、2004年新潟県中越地震に際しては地域活動拠点を置いた。前者は西南学院大学の磯 望 教授(当時)、後者では上越教育大学の山縣耕太郎准教授(当時)が中心となった。こうした経験に基づいて、2009~2010年に災害対応委員会(委員長:平井幸弘)において、大災害時における本学会の対応が提言として取り纏められた。この提言が、東日本大震災直後に活かされることになった。災害直後に災害対応本部が初めて設置され、ホームページで調査情報等を発信した。また写真判読による津波被災地図を作成し、救援や復旧・復興に役立てられた。その後、熊木洋太、久保純子が委員長を務め、2016年熊本地震、2018年西日本豪雨、2019年東日本台風の際に災害対応本部が設置された。2021年には東日本大震災10年にあたり見解を発出し、シンポジウムを報道機関に広く公開し、オンライン記者会見も行った。2024年の能登半島地震に際しては、鈴木が委員長を務めるなか、本学会はこれまでの経験に基づいて速やかに災害対応本部(本部長:箸本健二理事長)を3日後に立ち上げ、金沢大学の青木准教授が地域拠点として現地で対応したほか、広島大学の後藤准教授を中心とした緊急調査グループが活動を開始し、その成果や見解が連日報道された。本委員会のホームページにも注目が集まった。</p><p></p><p>今後に向けて:これまでの活動により、地理学ならではの災害対応の重要性が明らかになった。とくに広域災害は地域性を有し、その理解が防災の基本であるが、一般には俯瞰的把握が難しいため、これを補う地理学的視点が求められる。また地域性は自然と人文の相互作用から生まれるため、その解明はまさに地理学のテーマでもある。本学会の新ビジョン(2018)においては、「持続可能な社会づくり」への積極的発言と実績に基づく地理教育の充実」が目標として掲げられている。本学会の活動は、我が国の災害対応力の強化につながることを信じて、今後ますます研究力と発信力を高める必要があろう。</p>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2024s (0), 29-, 2024
公益社団法人 日本地理学会