承認とコミュニケーション

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タイトル別名
  • Anerkennung and Kommunikation
  • ショウニン ト コミュニケーション

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説明

主に初期へーゲルの著作との関連で論じちれてきた承認概念は、80年代以降、マルチカルチャー、フェミニズム、共同体主義をめぐる論争においても頻繁に言及されるようになってきた。社会運動や社会批判に規範的基礎を与えようとする試みにおいて、不遇な立場にある諸個人と集団の問題を解決しようとする場合に、分配における不平等の除去だけではなく、社会における個人や集団の侮辱や軽蔑の回避をめざすことが課題となってきているのである。本稿で私はまず、Ch ・テイラーに代表される「承認の政治」という立場の文化主義的問題点を指摘した。第二に私は承認概念を軸として批判的社会理論を構築しようとするA ・ホネットの試みを吟味した。彼によれば社会の展開のダイナミズムを規定する要因として、社会的相互行為における道徳的緊張を無視することはできない。ここで彼は個々のアイデンティティを構成する実践的な自己関係に応じて、承認を三つの形式に分類する(欲求および情動的本性、道徳的帰責能力、能力と特性)。これらの要素のいずれかが軽視されたときに、コンフリクトが生じるのである。この観点から見れば、再分配と承認という独立した二つの解法によって社会の不正義の克服をめざすN ・フレーザーの議論には概念的難点があることが分かる。つまり、フレイザーは承認を、個人や集団の価値志向と生活形式への社会的承認に還元しているのである。そして最後に私はホネットの承認の社会理論という試みが、社会批判や診断という課題のためにどのような視点を提供するのかについて考察した。

収録刊行物

  • 年報人間科学

    年報人間科学 23-1 1-20, 2002

    大阪大学大学院人間科学研究科社会学・人間学・人類学研究室

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