<資料紹介>伊藤大輔『映画「祇園祭」 --物語の輪郭--』

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タイトル別名
  • Introduction of Research Materials: The Summary of the Movie "Gion Matsuri" written by Daisuke Ito himself
  • シリョウ ショウカイ イトウ ダイスケ 『 エイガ 「 ギオンマツリ 」 : モノガタリ ノ リンカク 』

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抄録

映画「祇園祭」(1968年11月23日封切り)は, 室町時代の京町衆が多くの困難を乗り越えて祇園会を再興する様を描き, 158万人を越える観客を得て大ヒットした時代劇映画である。独立プロ製作のこの作品には, 時代劇のスター俳優, 中村錦之助, 三船敏郎らが出演し, 「時代劇の父」と呼ばれる映画監督伊藤大輔が製作の中心にいた。映画のテーマは1960年代の社会状況とも響き合い, 製作協力券の購入などを通じて市民が映画製作に参加した。この映画の脚本は専門誌上で刊行公開されているが, もう一つ別のストーリーが存在する。伊藤大輔が執筆した小冊子「映画「祇園祭」--物語の輪郭--」である。表紙・裏表紙が深い赤色のこの本を, 伊藤大輔自身は「赤本」と呼んでいた。この「赤本」には, 伊藤大輔が1962年から温めつづけた映画「祇園祭」の構想が記されている。京町衆が自治に目覚め, 山門(比叡山延暦寺)や幕府の妨害に対抗して祇園会を新たに「祇園祭」として復興する。その民衆のエネルギーは, 現代の祇園祭, 山鉾巡行に引き継がれるものであった。過去と現在をつなぐ物語は, 京都府政百周年記念事業にふさわしい内容である。しかし, 伊藤大輔は映画「祇園祭」の監督を途中で降板し, 完成した映画は伊藤大輔の意図とは異なるストーリーとなった。「赤本」は, 幻に終わった伊藤大輔の「祇園祭」を記録する唯一の資料である。この「赤本」は, 京都府立京都学・歴彩館および京都文化博物館内伊藤大輔文庫に各1冊ずつ所蔵されている。しかし, 未だ公刊物とはなっていない。ここに, 「赤本」を伊藤大輔文庫所収の自筆草稿, 自筆メモなどの情報を注記しながら翻刻・紹介する。映画監督伊藤大輔の思考の軌跡を確認し, 戦後民主主義の歴史を語る作品をさらに深く分析するための基礎作業である。

収録刊行物

  • 人文學報

    人文學報 116 207-247, 2021-03-31

    京都大學人文科學研究所

参考文献 (8)*注記

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