山岳国立公園の登山道管理はいかにすべきか

書誌事項

タイトル別名
  • How should trail management in national parks be addressed
  • Consideration from management in China’s national park
  • −中国の国立公園の登山道の現状調査から−

説明

<p>はじめに</p><p>山岳国立公園の登山道は公園内の移動に必要な中核施設である。山岳国立公園の訪問者のほとんどは,自然を求めていわゆる登山(英語のtrekkingやhiking)をする。したがって登山道を歩く際には,侵食や泥濘の発生による自然体験の質の低下を軽減することが求められる一方で,可能な限り人工的な構築物を登山道に用いないことも望まれる。</p><p>こうした利用者側と管理側の多様度を確保するために,大雪山国立公園では「大雪山グレード」と呼ばれる登山道のグレード区分が行われている。利用者が多い登山口の近く(グレード1や一部のグレード2の区間)では侵食軽減の管理を行う一方で,利用者の少ない登山口の遠く(グレード4や5の区間)では可能な限り自然の状態に近い登山道を維持しようという考え方である。このような管理の考え方は,グレード区分の有無は別として,多くの先進国の山岳国立公園で受け入れられている。</p><p>一方で,中国の国立公園(国立森林公園および国立ジオパーク)では,基本的に管理のための予算が中央政府から配分されないため,利用者から多額の入園料を得て維持管理を行うことが求められている。このため多くの利用者は入園料に見合った快適性を求め,一般に国立公園の登山道は舗装化などによる管理が常識になっている。しかし,その実態はほとんど研究されていない。本研究では,中国の国立公園の一つである翠華山国立ジオパークで登山道の現状を明らかにし,中国の山岳国立公園の登山道管理のあり方から世界の山岳国立公園の登山道管理について考える。</p><p></p><p>調査対象地域と調査方法</p><p>翠華山国立ジオパーク(面積32 km2)は,西安市の南20 kmに位置している。翠華山国立ジオパークは広大なグローバル・ジオパークの一部で,西安市に近いことからきわめて多くの市民が利用している。</p><p>公園内の登山道すべてを歩き,登山道表面の物質により登山道を敷石と敷石の間をコンクリートで埋めた「コンクリート型」,敷石で全体を埋めた「敷石型」,巨礫を並べた「巨礫型」,登山道表面の一部に植生が残る「草地型」および「裸地型」の5つに区分し,208カ所で登山道の幅と最大侵食深,複線化の有無などを記録した。この際,登山道を含めた地図が存在していないため,ハンディーGPSを用いて登山道地図を作成した。</p><p></p><p>結果</p><p>登山道の総延長は29.14 kmであった。5つの登山道区分のうちコンクリート型,敷石型,巨礫型が人工処理をした登山道で,総延長の86.8%あり,実に総延長の65.1%(18.9 km)がコンクリート型登山道であった。自然の登山道は13.2%に過ぎなかった。人工的な登山道では侵食は認められなかったが,自然の登山道では草地型で最大5.5 cm深,裸地型で最大12.6 cm深の侵食が認められた。</p><p></p><p>山岳国立公園の登山道はどうあるべきか</p><p>欧米や日本を中心とした山岳国立公園では登山道侵食が大きな問題となることが多い。登山道侵食の発生を止めるには登山道表面を舗装などで処理するのが最も効果的である。しかし先進国でそのような登山道が好まれているという事実は聞かない。では,登山道の侵食問題にはどのような管理によって取り組むべきであろうか。</p><p>中国のように舗装化によって山岳国立公園の登山道管理をすることは,先進国では容易には受け入れられない。しかし,翠華山国立ジオパークでの調査結果からわかるように,舗装などの人工的処理は登山道侵食に対して絶大な効果を有していることは否定できない。したがって「中国方式」をすべて否定するのではなく,山岳国立公園に「大雪山グレード」のような登山道の区間区分を設けて,グレードの低い登山口近くでは,より積極的に「中国方式」を導入し,グレードの高い区間では自然をより徹底的に守るといった,メリハリのある維持管理が求められるといえる。</p><p>中国の山岳国立公園で求められているこうした登山道の管理が,先進国においてどれくらいの割合の登山道区間で許容されるのかは今後の課題である。また,翠華山国立ジオパークのように9割近くの登山道区間が人工的に処理されている状況は,中国の利用者の間でも議論されるべきであろう。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390850475731627648
  • NII論文ID
    130008006668
  • DOI
    10.14866/ajg.2021s.0_82
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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