経済移行過程におけるベトナムの森林・林業問題

  • 飯田 繁
    九州大学大学院農学研究院
  • Lavinh H. H
    Graduate School of Bioresource and Bioenvironmental Sciences, Kyushu University

書誌事項

タイトル別名
  • Problems on Forest and Forestry in Vietnam going through a Process of Market-Oriented Economy
  • ケイザイ イコウ カテイ ニ オケル ベトナム ノ シンリン リンギョウ モンダイ

この論文をさがす

説明

ベトナムでは過去60年間に約500万haの森林が消失した.残された森林面積は930万haであるが,生産林の平均蓄積は73m^3/haと貧弱である.他方,約1,140万haもの草地または裸地が全国に広がっている.政府はこの禿げ山の内約500万haを植林するという野心的な計画を作成し,実行に移している.そこで問題になるのは,なぜこのように広大な禿げ山が形成されたのかという問題である.その原因究明と適切な対策を行わずして500万haの植林が実行されるとは思えない.森林を減少させる要因が排除されなければ,植林する端から森林が消失するという問題に直面することが予想されるからである.ベトナムの森林減少には三つの大きな要因がある.ひとつはベトナム戦争における枯葉作戦である.これによって約200万haの森林が破壊された.二つは全国的な土地不足を解消するための開墾政策とその失敗による禿げ山である.三つは現在残された森林の維持管理問題であり,少数民族の居住地域における森林の減少問題である.500万haの大造林計画が地域的にどのように割り当てられているか資料が公表されていないのでわからない.しかし,国際的に注目されているのは少数民族地域の森林,つまり残された地域における森林の維持管理問題である.そこで見られるひとつの特徴は,地元住民を村ぐるみ組織し,日本の委託林あるいは共用林野のような制度を作り,火災や盗伐などの防止,林業労働力の確保を実現しようとするところにある.他方,土地不足・開墾政策と関連して,禿げ山に対する請負耕作や借地権の設定などが勧められており,山林局が指令を出しても植林が進まないと予想される.特に,ドイモイ政策以降は農民の経営意欲や林産物の市場性・採算性が問われるようになり,計画通り植林が進むとは思えない.それが実現されるのは,日本の農地解放後のように,農民に一定の資本蓄積や労働力の余剰が生まれない限り困難と予測される.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ