19世紀初頭におけるグリモによる「グルマン」再定義の試み : 新興富裕層の野卑と貴族的洗練のあいだ

書誌事項

タイトル別名
  • L'essai de red?finir la notion du 《Gourmand》 par Grimod au d?but du XIXe si?cle: Entre la voracit? des nouveaux riches et le raffinement des aristocrates
  • 19セイキ ショトウ ニ オケル グリモ ニ ヨル 「 グルマン 」 サイテイギ ノ ココロミ : シンコウ フユウソウ ノ ヤヒ ト キゾクテキ センレン ノ アイダ

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説明

本稿は19世紀初頭の美食家グリモ・ド・ラ・レニエール Grimod de la Reyni?re による「グルマン」概念再定義の試みが持つ意味を,語義の変遷を中心に,社会の変化と照らし合わせながら考察する。そもそも「大食」と同義の悪徳でしかなかった「グルマンディーズ」は,18世紀を通じて次第に「大食」のみならず「洗練」の要素も含むようになっていた。この変化を引き継ぎながら,グリモは新たな「グルマン」観を示す。フランス革命の一連の混乱がやや落ち着きを見せた19世紀初頭,グリモは著作『グルマン年鑑 Almanach des Gourmands』で「グルマン」の語は以前よりもずっと「高尚な意味」を持つようになったと宣言している。しかし「グルマン」を「高尚な意味」に引き上げるためには,その構成要素である「大食」,そして「洗練」さえもが含みうる,当時の特殊な社会状況においては否定的にとられかねないニュアンスをあらかじめ除去しておくことが必要であった。「グルマン」が含む「大食」は食産業が急速に発展する当時の社会で,さかんに飲み食いする姿を曝していた新興富裕層の野卑・貪欲さを想起させる。とはいえその貪欲な食欲は食産業発展のために不可欠の動力であることも事実であった。そこで彼らの野卑なイメージをいましめ,「グルマン」としての自覚を持たせるために,グリモは「グルマン」が18世紀に帯びつつあった「洗練」の要素を強調しようとする。だがその際,繊細な食べ手を表す「フリアン」の語との違いを示すことに努めている。というのも,「フリアンディーズ」が含む「洗練」は,かつて貴族的社会におけるエリートのしるしとして機能し,さらには女性的・軟弱な食べ手を想像させたのであり,もはや貴族的属性が価値を持たない革命後の社会においてこのイメージを前面に押し出すことは単なる反動・懐古趣味としかなりえないからであった。グリモにおける「グルマン」とは飽くことのない男性的な食欲を持ちつつも,確かな鑑識眼を持つ,新時代のエリートにふさわしい「高尚な」性質を持つものとして定義されている。

収録刊行物

  • 人文學報

    人文學報 103 127-147, 2013-03-25

    京都大學人文科學研究所

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