日本における地籍調査の進捗とその地域的差異に関する研究

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  • A Study on Progress of Cadastral Survey and Its Reginal Differences in Japan

抄録

<p>Ⅰ.はじめに地籍とは、「土地の位置・形質およびその所有関係。またそれを記録したもの」(言泉:国語大辞典)である。地籍の情報は、一筆ごとの土地について、所有者、位置、境界、面積などが示される。昨今よく言われるように、所有者が不明であるのは問題であるが、同時に境界や面積が不正確であることも、円滑な土地取引や土地関連の各種行政の遂行を妨げ看過できない。日本では、登記所(法務局)の公図が、明治期の地租改正に伴い作られた図面に依拠するものが少なくなく、このことが問題を引き起こしている。このような事情から、第二次世界大戦後、国土調査法(1951年)に基づき近代的地籍調査が進められた。地籍調査の開始以来既に70年が経過したが、全国の進捗率(面積ベース)は2020年度末でも52%であり芳しいものではない。都市部(DID地域)に限ると26%と一段と低く、農村部に相当するDID以外の地域では53%となるので都市部での遅れは明白である。また地目別の進捗率では、農用地が最も高く70%に達しているのに対し、林地は46%に留まり、両者の間にも大きな落差がある。本発表では日本の地籍調査の遅滞とその要因について検討する。それを解く一つの鍵として都道府県間の差異にも注目する。Ⅱ. 地籍調査の遅滞の要因なぜ地籍調査の進捗が芳しくないのか。この点は岡橋(2022)で考察したのでその成果をふまえ簡潔に提示する。第一の要因は地籍調査事業の主体である市町村に関わるもので、調査実施に要する予算や職員の確保、市町村の意識の問題が挙げられる。そもそも地籍調査事業は自治事務であるため、市町村の発意がなければ開始されないし、熱意がなければ持続的に進められない。第二の要因は、土地の所有者である住民に関わるもので、地籍調査の必要性が住民に十分理解されないことが障害となっているとする。しかし、他の先進諸国で地籍調査がほぼ終了している事実からすれば、これも容易に納得できるものではない。第三の要因は、調査地域が実施困難な都市部等の地域へ移行してきているという点である。ただし、進捗率が低い都道府県では、都市部だけではなく農村部でも低いので、この説明も十分ではない。第四の要因は、都道府県担当部局の問題である。多くの都道府県で農政部局となっているが、このことは農地の地籍調査推進には適切でも、それ以外の地域(都市部など)では推進しにくい要素となりうる。 以上のように地籍調査遅滞の要因は整理されるが、遅滞あるいは進捗のメカニズムについては、事業の推進者である市町村、さらにそれらを統括する都道府県について検討が必要である。Ⅲ.地籍調査進捗率の都道府県間の差異ここで注目したいのは、都道府県別の進捗率に大きな差異がみられることである。北海道、東北、中国、四国、九州の各地方では調査が比較的進んでいるが、関東、中部、北陸、近畿の各地方では大幅に遅れている。特に近畿や中部では、未だ10%前後という極端な低率にとどまる。このような進捗率の都道府県間格差についてはこれまでほとんど検討されてこなかった。岡橋(2022)では、都道府県別地籍調査進捗率の空間的分布が、顕著な中心・周辺的な同心円状のパターンを示すことに注目し、その要因として歴史的な土地開発との対応関係を仮説的に指摘している。早くから耕地の開発が進み、集約的な利用がなされてきた中心地帯では、農地の所有が細分化し、一筆あたりの面積が小さくなり、権利関係がより複雑で、所有者の権利意識も強いことが予想される。山林も植林が早くから進んだため、農地と同様の傾向が見られるであろう。すなわち、中心地帯では都市部における地籍調査遅滞要因が農村部にも該当する。他方、外縁地帯では土地開発の歴史が相対的に新しく、粗放的利用が多くなる。中心地帯に比べて1世帯当たりの農地や山林の所有規模も大きく、1筆の面積も大きい。その分、地籍調査を阻害する要因が弱くなる。他方、大規模な土地改良事業を行いうる地域を多く抱えており、土地改良事業と地籍調査が並進して進められた可能性がある。このように、土地開発の歴史が地籍調査の進捗に影響を与えている可能性があるが、都道府県行政の対応も重要な意味を持つ。ここでは、和歌山県、岡山県など、中心地帯にありながら高い進捗率を示す諸県の要因を検討した。その詳細は大会発表時に明らかにしたい。Ⅳ.おわりに 都道府県間の地籍調査進捗率の差異については、上述した要因だけでなく、事業を受託する業者側の要因も作用している可能性がある。中心地帯ほど、地籍調査以外の業務需要が潤沢であり、これに対して、周辺地帯ではその逆であろう。このような経済的な側面からも考察を加えてみたい。文献:岡橋秀典 2022. 日本の地籍問題と森林・林業政策―序説として. 奈良大地理28:35-47.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390860553711783296
  • DOI
    10.14866/ajg.2023a.0_138
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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