水共生学の観点による農業用ため池の維持管理に関する多面的考察
書誌事項
- タイトル別名
-
- A Multidisciplinary Study on the Maintenance and Management of Agricultural Ponds
説明
<p>ため池に関しては貯水量や湖面積といった基本的な諸元のみならず,その存在自体も正確な把握ができていない.もちろん,災害や水資源の観点で重要性の高い大型のため池に関しては,近年の気候変動に伴う豪雨の頻発化・激甚化もあり,基本的な情報は正確に把握され,十分な維持管理が行われている.ここで問題となるのは,全国に膨大な数が存在する中・小規模のため池である.中・小規模のため池には個人や少人数の集団により維持管理されているものも少なからず存在し,特にそれらのため池に関しては諸元や維持管理,利用実態が不明となっている割合も大きいと考えられる.地域に古くから存在するため池は地域の重要な水資源であるばかりでなく,地域の水や水を取り巻く環境,生物多様性,その地域の歴史や文化に重要な役割を果たしてきた.多様な機能と課題を有するため池であるが,我が国においては少子高齢化,農業を取り巻く環境の変化,豪雨災害の激甚化・頻発化により大きな変革期を迎えている.特に膨大な数が存在する中・小規模なため池に関してはその変化が大きいと考えられる.ため池に関しては,防災の観点のみから不要なため池を廃止する検討が進んでいるが,安易な廃止には生物多様性や環境,景観,地域文化という観点でのリスクを伴うことにも留意すべきである.また,廃止にも費用は生じるため,膨大な数のため池全てに費用を計上することは現実的ではない. ため池に関してこれまで通りの受益者による管理には限界があり,自治体等により何らかの対策が必要である.ただし,上述の通り膨大な数が存在するため,全てのため池に一様の対策を行うことは現実的ではなく,何らかの優先付けが必要となる.実際に,防災の観点から対策の必要性に関して優先付けが行われている.しかし,これらの指標には生物多様性や環境,景観,文化に関する観点が欠けている.そこで本研究では,水環境の変化を地球圏―人間圏―生物圏のゆらぎの観点から捉える水共生学の観点を踏まえた上でため池に関する分析を行い,今後の維持管理に活用可能なため池の多面的な評価に資する知見を得ることに取り組んだ.</p>
収録刊行物
-
- 水文・水資源学会研究発表会要旨集
-
水文・水資源学会研究発表会要旨集 36 (0), 49-, 2023
水文・水資源学会