経済センサス上の千葉市飲食店事業所数の検証

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Verification of the Number of Restaurant Establishments on the Economic Census in Chiba City
  • Is Japan's Economic Census correct?
  • 経済センサスの事業所数は正しいか?

抄録

<p>地域の産業を分析するにあたって,経済センサスの調査結果は最も重要なデータだといえる。経済センサスは,特に重要な統計調査として統計法に基づく基幹統計調査に位置づけられており,企業・事業所の母集団情報作成のための全数調査が行われている。しかしながら,インターネットの進歩により外観では判別が困難な事業所が増えたこと,調査票回収率の低下など調査環境の悪化を要因とした把握漏れの可能性が指摘されており,経済センサスのデータの検証が求められる。</p><p> 本研究では,法的拘束力のある手続きに基づいて把握漏れがないと考えられる事業所データを作成し,経済センサスの把握漏れの程度と偏りについて検証することを目的とする。対象地域は千葉県千葉市とする。千葉市は,中世に千葉氏が拠点を構えたことに端を発する千葉都心部から高度経済成長期以降に開発の進んだ幕張新都心,おゆみ野やちはら台といった大規模ニュータウンまで,多様な市街地環境を持つことから,把握漏れの地理的偏りの分析に適しているといえる。対象業種は,日本標準産業分類で定義される「飲食店」とする。飲食店は,地域の魅力を構成する主要な業種であるとの指摘が多くあり,正確な把握が重要な業種であるといえる。また,開廃業が多いという飲食店の性質から,5年という広い調査間隔による把握漏れが疑われる。対象データは,本研究の主題である経済センサス(活動調査)と,比較対象である食品営業許可施設データを基に作成した飲食店事業所基準データ(以下,基準データ),さらに民間事業者の所有するデータである電話帳データ(東大CSIS共同研究による)と,レストラン情報サイト(食べログ)より入手したデータを用いる。経済センサス以外のデータに関しては,事業名などにより業種を特定した上で対象業種への絞り込みを行った。これらのデータ数を市全域で比較した上で,経済センサス上の飲食店事業所数と基準データ上の事業所数を町丁目別に比較する。</p><p>まず千葉市全域でデータ数を比較した結果,基準データ(5682件,2021年8月)に対して経済センサス上の飲食店事業所数は約4割(2285件,2021年6月)で,かなりの把握漏れがあることがわかった。この経済センサスの事業所数は,固定電話契約の減少により網羅率の低下が想定される電話帳(2197件,2021年8月)と同水準で,時点の違いを考慮したうえでも食べログ上の飲食店事業所掲載数(3641件,2023年10月)より少ない。経済センサスのうち法人を対象とした試験調査では,他業種と比べ飲食店の調査票回収率が低いことが報告されており,調査票回収率の低さが網羅率の低下を招いていると考えられる。 また,町丁目別に基準データに対しての経済センサスの網羅率を計算した結果,海浜幕張駅周辺や蘇我駅周辺は比較的高い一方で,千葉都心部の網羅率が低いことがわかった。全体的にみても町丁目ごとの網羅率のばらつきは大きく,経済センサス上の飲食店事業所の,地理的偏りの存在が明らかになった。</p><p>地域・業種を限った分析ではあるものの,不特定多数を顧客とする飲食店でもその事業所数には相当な把握漏れがあり,また地理的偏りがあることが明らかになった。とはいえ経済センサスほど多くの業種,広範囲で全数調査を行う調査はなく,重要な調査であることには変わりがない。地域の分析や政策検討において効果的な活用ができるよう,他地域や他業種の分析を通じたさらなる偏りの検証が求められる。</p><p></p><p>本研究は東大CSIS共同研究No.1285の成果の一部である(座標付き電話帳DBテレポイント 法人版(P1B08_2021年8月)(㈱ゼンリン提供))。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390862809659624576
  • DOI
    10.14866/ajg.2024s.0_188
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ